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大人気アニメ『ダイヤのA』担当 山谷さんに聞く。ファンの心をつかむライツビジネスの話

2019.04.19

朝のひととき、働く仲間と一緒にインスパイアされる時間を持とう!そんな考えから生まれた、外部ゲストを招いて座談会スタイルで対話する「アカツキのちょっと特別な朝会」。今回いらしてくれたのは、講談社で「ライツビジネス」のプロとして長年活躍されてきた山谷 奈久留さんです。
数多の大ヒット漫画・アニメ作品が商品化されたり、舞台化されている今日の日本。作品に関連する商品化や新たな価値を創出するのがライツビジネス事業です。新たなIP開発や既存IPのプロデュースなどを手がけているアカツキでも、ライツビジネスは今後、より知見を蓄えていきたい分野です。

日本のライツビジネスが本格化する黎明期からこの世界に関わり、手探りで市場を開拓されてきたという山谷さん。「最初は漫画にもアニメにも造詣がなかったんですよ」と語りますが、23年ものキャリアを積み、ライツビジネスのパイオニアとして漫画やアニメ作品に新たな価値と可能性を生み出してきた経験を惜しみなく語ってくださいました。

山谷 奈久留(やまたに なくる)さん株式会社講談社 ライツ事業部

主な担当作品:『ダイヤのA」(エース)』『ダイヤのA actⅡ』(「週刊少年マガジン」連載)『続・終物語』『若おかみは小学生!』※すべてアニメ作品担当

開拓者としての一歩。アルバイトから有名漫画作品のライツビジネス担当に

ー山谷さんの仕事について教えてください。

私が所属している講談社ライツ事業部は、講談社が取り扱う小説や漫画をアニメ化や実写化、商品化などの2次展開を担う部署です。私はそこで23年間、主にアニメ化を担当してきました。

講談社にはアルバイトで入り、ケーブルテレビの番組制作の部署と少女漫画雑誌「なかよし」の編集部で働きました。ちょうど世の中は「美少女戦士セーラームーン」全盛期でした。

アルバイトの契約期間が終わる頃に「なかよし」の人気作品のアニメ化が決定し、ライツ担当の人間が必要ということで、たまたま私に声がかかったんです。当時の私は漫画やアニメへの造詣が深くありませんでしたが、商品化窓口や、作家さんへの監修などをしていました。初めて関わったライツビジネスは刺激的で楽しくて。結果的にその作品を約10年間担当しました。

その後、講談社はコミケやキャラクターイベントに出展して物販をするようになり、私もグッズ作りに携わりました。当時はテレフォンカードがすごく流行っていましたので、もう数えきれないほど作りましたね。出版社ですが、グッズばかり作っていました。
今では当たり前のようにあるグッズ付きの限定版コミックスも、その頃が始まりで、講談社が先駆けでした。

ちなみに、そういった新しい企画って、夜お酒を飲みながら作家さんや関係者と話しているうちに生まれることが結構多かったんです。必死に企画をメモしながら飲んでいました(笑)。今はそういう場が減り、時代の変化を感じます。

未踏のミッション「王道の高校野球漫画に女性ファンを」

ー今は「ダイヤのA」のライツ事業に携わっていらっしゃるのですね

はい。同じ先生の作品を10年ほど担当した後、少年漫画やドラマ化もした人気少女漫画などのアニメ化の担当をして、7年ほど前から「ダイヤのA」の担当になりました。
この作品は王道の高校野球漫画です。アニメ化の前は、野球少年や男性のファンが多数でした。

私のメインの仕事は商品化窓口でした。今までやってきた作品は待っていても商品化の問い合わせが多数くるものが多かったのですが、「ダイヤのA」は、待っているだけでは商品化のお話はいただけませんでした。たくさん営業しましたね。数多くのメーカーさんにアタックしていきました。作品の面白さと女性ファンが必ずつきます!と力説していたように思います。とにかく営業しました。

少年漫画だから女性ファンはつかない」と言われ、半年ほどは苦戦しました。アニメの放送時間帯もあったかもしれません。土曜日の朝放送だったので、子ども向けのアニメと認識され、大人のアニメファンが見るものではないと思われてしまったようです。
そんな中でも少しずつ作品に人気が出てきて、神宮球場で1万人近いファンを集めてイベントができるまでになりました。色々なプロ野球球団とのコラボや、2.5次元の舞台もやりました。今では、男性ファンも女性ファンもついてくれている大きな作品へと育ってくれました。

「ダイヤのA」はアニメ作品としては珍しく、2年半続けてテレビで放送されました。継続することはメーカーさんに大きなメリットがあります。通常のアニメは1~2クール放送が多いので「商品化しても発売される頃にはアニメが終わっている」ということがよくありましたが、「ダイヤのA」では長期間商売ができたので、さまざまな商品展開ができました。

現在「週刊少年マガジン」では、新シリーズの『ダイヤのA actⅡ』が連載され、2019年4月からはテレビアニメも放送されています。引き続き色々な展開に向けて取り組んでいるところです。ぜひ皆さんもご覧になってください。

“売れるセオリー”を打ち破った、社員の「どうにか作品の魅力を伝えたい!」

Q.どのような目的で作品をアニメ化し、何を基準にその効果を測定しているのでしょうか。

会社によって違うと思いますが、私たち出版社の目的は、書籍の増売が一番です。原作の盛り上げや、さらなる部数倍増のために、実写やアニメなど2次展開を仕掛けていきます。効果があったかどうかはやはり部数がどのくらい伸びたかが目安になります。

Q.アニメを長期間継続できた理由はどこにあったのでしょうか。

高校野球漫画ですので、ストーリーがクール単位できれいに区切れない。どうにか長期間継続できないかということで、最初に1年間の放送が決まりました。継続するためにどう盛り上げるかが課題で、色々仕掛けました。結果として1年の放送期間で人気が出て、商品化などの展開も広がってきたので、その先の制作を決められました。

Q.なぜ王道の野球漫画は、商品化に向かないと考えられていたのでしょうか

最初「ダイヤのA」の絵柄は、あまり女性にウケないだろう、商品化しても売れないだろうという先入観をメーカーさん側が持っていたように思います。たくさんイベントをしたり、商品化したいというメーカーさんはどんどん許諾して、世間に広く認知されるよう励みました。「どうにか作品の魅力を伝えたい」とスタッフ、キャストみんなで取り組んできたのが、少しずつ芽を出し、流れが変わっていったように思います。

もう一つ大きかったことは、キャラクターがひとり歩きしてくれたことです。作品の面白さをだんだんわかっていただけるようになり、個々のキャラクターの個性も理解されて、女性ファンの方々がお気に入りのキャラクターを選んでくれるようになりました。少年漫画のタッチで描かれた作品で女性ファンを増やすのに成功できたことは、私たちにとって大変よい学びになりました。

Q.「ウケない、売れない」先入観の中、メーカーから絵柄への要望などあったでしょうか。

過去のセオリーから、「より売れそうな絵柄に変えてほしい」というメーカーさんもいらっしゃいました。ですが、私たちとしては原作の魅力をそのままアニメ化したいという思いがあり、互いの着地点を探っていきました。ふだん、私たちはライセンシーさんがどんなグッズを作りたいか提案をいただく立場ですが、この作品では「どんなものがファンに人気があるか」など、積極的にお伝えしながら一緒に作っていきました。

時代の変化とともに、アニメファンの行動にも変化が

Q.野球漫画を女性向けにプロデュースしていく上で意識したことを教えてください。

男の子の集合体に“萌え”を感じる女性の心理があると思うのですが、「ダイヤのA」では、あえてそれを感じさせないよう意識しました。女性も子どもや男性も、みんなが作品として楽しめるものをきちんと作ったという思いを持っています。

”萌え”は、女性ファンの皆さまが個々に感じてくださっているから大丈夫という思いがありました。

また、商品化する上で「キャラクターが高校球児としてありえないことはやらない」「媚びない」を徹底しました。結果的にそれが良い結果になったのではないかと思っています。

Q.女性ファンに向けての発信でよかった施策は?

イベントをたくさん開催しました。あと、前シリーズのアニメが終わり、2.5次元の舞台も終わってから露出があまりない時期があったのですが、その間も球団コラボをやったり、ファンクラブ向けの施策や発信をしてきました。一部の女性ファンは露出が減ると別の作品へ移ってしまう傾向がありますので、常に何らかの発信をするように心がけてきました

Q.ファンの性質の変化などはありましたか

これはあくまで個人的に感じていることなのですが、かつての男性ファンの性質が今の女性ファンたちに見られると感じています。
2000年頃のアニメ界では、男性ファンは多少高額なものでも、あらゆる商品を買ってくれたように思います。対して、女性ファンは財布の紐が固いと言われていました。ところが今は女性も「イベント参加券」を手に入れるために、意欲的に応募券付きのDVDを買ったり、トレーディング缶バッジやブロマイドなど、お気に入りのキャラクターが出るまで多数購入したりなど、購入意欲が高くなっていると思います。女性が元気な時代になったなぁと感じますね。

これは個人的な見解ですが、男性ファンの場合、一度ファンになってくれると長く応援してくれるイメージがあります。アニメ放送がない間もずっとファンでいてくれますね。ずっと長く支えてくださるファンの方々は本当にありがたい存在です。

Q.ゲームでは「リリース時の初速がすべて」というほど大事なのですが、アニメはどうですか?
同じようにアニメも初速が大事です。放送前に色々仕掛けて宣伝をしていかないと1クールものなどは、すぐに放送が終わってしまいますからね。書籍は、アニメ化発表時と第1話放送直後にどのくらい重版がかかるかがとても大事です。 テレビアニメは1クールで多くの作品が放送されますので、3話くらいまでで作品の良し悪しを判断されてしまいます。なのでつかみはしっかり作らないとと思っています。もちろんジワジワ人気が出るアニメもありますけどね。

Q.想定外に爆発的人気が出た施策や作品はありますか

漫画はとても売れましたが、アニメ制作では難しいかなと思ったのは、「のだめカンタービレ」ですね。音楽描写がとても難しく、アニメにするにはハードルが高いと言われていましたので。でもこの作品も制作スタッフの熱意がものすごかったので、成功したと思っています。ドラマの効果もあったと思うのですが、当時はあんなに広く展開できると思っていませんでした。

「ミーハーが一番だよ」心を支えてきた言葉

Q.ライツビジネスでは、マーケティングやブランディングなど幅広い領域を扱っていると思いますが、大切にしてきたことは?

何にでも興味を持つことだとと思っています。個人的な好みで「読まず嫌い」になりがちで、時には気乗りしない作品もありますが、先入観を持たないようにとにかく読んでみる、観てみることを意識しています。
仕事を始めた時、先輩に「この仕事をする上で何が一番大切か」を聞いたんです。返ってきたのは「ミーハーが一番だよ」という言葉でした。なるほど…と腑に落ちて、以来ずっとその言葉が頭にありました。ありがたいことに、自分がミーハーだったというのがこの仕事を続けてこられた最大の理由かもしれません(笑)。

Q.山谷さんはどういう人と仕事をしたいですか?

何かをやりたい!と強く思ってる人と仕事をすると楽しいですね。今日のように若く意欲のある人たちとお話することは、私にとって刺激になり、がんばりたいというエネルギーになります。皆さんの話をもっと聞きたいです。

Q.今後やってみたい仕事はありますか?

正直に言えば、今の私に20代や30代の方々と同じような旬の感性があるとは思いません 。でも、それがいけないことだとも思いません。きっと、この年齢だからこそ感じられることがあるはずですし、現に今の私は、昔とは違う好きなものもたくさんあります。仕事でもプライベートでも、今後はそれを楽しみにしていきたいです。偉そうなことは言えませんが、私ならではのできることを探して、企画して、成立させていけたらいいなと思っています。

Q.これからキャリア形成する後輩たちへメッセージをお願いします

何でも「面白い、楽しい」と思えることが一番かなと思っています。私は、若い頃は遊んでばかりいて、20代は仕事に対しての意識が全くありませんでした。この仕事を始めてからそれが変わったんです。一生懸命楽しんでやってきました。私は自分のやりたいことがここで見つかりました。それまでに、いろんな経験をしたことも、どれも無駄にはなっていないと思っています。
ヒット作の経験も、できればすごく力になると思います。でも失敗すること、苦手な作品に関わること、なにもかもが経験になります。なんでも躊躇しないで、とにかくやってみてほしいなと思います。

チャレンジを重ねながら、業界のセオリーを打ち破って過去を上回る成功へとつなげてきた山谷さん。その過程で得た経験や学びをエネルギーとし、次の成長へつなげていく循環。関係各所と粘り強く細やかな調整を続けながらも、「譲れないもの」をしっかり守ってきた姿には、聞いている私たちにとっても心打たれるものがありました。また、ライツビジネスの道でキャリアを積んできた山谷さんならではの強さとしなやかさ、おごらず、常にインプットを怠らない姿勢など、たくさんのヒントをいただきました。

「一生懸命楽しんでやった経験は無駄にはならない」という言葉と、未踏の領域を開拓してきた山谷さんの厳しくも豊かな生き方にふれ、多くのメンバーが、未来への旅を楽しむイメージで満たされた朝でした。

文・写真:森 大樹  編集:坂井 朋子