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HoneyWorks×アカツキのコラボで展開、「哲学」重視のIP活用

2020.05.01

中高生に絶大な人気を誇るクリエイターユニット「HoneyWorks」。活動10周年を迎え、幅広いIP活用を支えるアカツキのプロデューサー・速水康とHoneyWorksのGomさん・ヤマコさんが、大人気コンテンツをどう「体験」へと昇華しているのかを語ります。

ゲーム制作からスタートしたプロジェクトが、「哲学」を核に広がっていった

―ハニワ初のアートワーク展「ハニワのアトリエ展」は、アカツキライブエンターテインメントが運営する「アソビル」で開催され、会期中に約1万人を動員しました。2020年夏以降に発売予定の公式リズムゲームは事前予約30万人を突破し、2020年1月下旬に公開した初のフルアニメーションMV『東京オータムセッション』はYouTubeで450万回視聴を突破。10周年の節目に企画されたこうした新たな取り組みはSNS上でも話題を集め、熱烈な「ハニワ」ファンも盛り上がりを見せています。これらの企画は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

HW HoneyWorks(ハニワ)は、これまで音楽×イラストという形で作品を発表し、小説やアニメなどのメディアミックスを展開してきました。その世界観を、ファンの皆さんに「参加」して楽しんでいただけるようなゲームをつくりたいと思い、パートナーを探していたところ、アカツキさんに出会いました。

アートワーク展、リズムゲームなど、HoneyWorksの一連のプロジェクトが、プロデューサーとしての初仕事となった速水。(あくまでも裏方のプロデューサーに徹したいとの思いで後ろ姿中心になってます。)

HoneyWorksのメンバーは、通常どおり着ぐるみで登場。

速水 ハニワさんは、他のクリエイターや声優さんなど、外部パートナーとの共作に対してとても柔軟で、積極的。異分野のさまざまな才能を掛け合わせながら作品世界を広げていく創作スタイルがとても魅力的だと感じていました。

アカツキは2018年夏前頃から、本格的にゲーム制作のパートナーとしてハニワさんの作品に関わることになりました。ゲーム制作を進める過程で、10周年を迎えるハニワさんがファンの方々に感謝を伝える場づくりや、より多くの人にハニワ作品を認知してもらうきっかけづくりなど、ゲーム制作の他にももっとできることがあるんじゃないかと思い始めました。

ハニワさんはこの10年、MVに留まらず小説やアニメ、バーチャルなど様々な表現手法を取り入れて数多くの作品を生み出してきましたが、全ての作品の根底には、10年間ずっと変わらない「創作哲学」があります。そして、この創作哲学こそが、ハニワ作品が10代の若者に愛され続ける魅力を生み出しています。ハニワさんを知らない人でも、ひとたびこの創作哲学に触れればファンになってしまう……そのくらい可能性を秘めたものであると気づきました。

この創作哲学を存分に体感できるような場をつくることで、既存ファンの方々に楽しんでもらえるはず。そう考え、アートワーク展を提案しました。そして、既存のファンの方々だけでなく、さらに多くの人にハニワさんの魅力を届けたいという思いから、フルアニメーションMVの制作を提案しました。

ハニワさんの作品の根底には10年間ずっと変わらない「創作哲学」がある。 その哲学を「体験できる」場をつくることで、ファンの人に楽しんでもらいたかった。(速水)

インタラクティブな青春音楽体験の創出が、ハニワの可能性を広げる

―速水さんが感じたHoneyWorksの哲学とは?なぜ、それをアートワーク展という「リアルな体験」として伝えたいと思ったのですか。

速水 ハニワさんの哲学は、一貫して「青春の尊さ」を描くこと。「青春の尊さ」は「全力を尽くした先に待っている人生で初めて見る光景」と言い換えることができる。作品表現が変化しても、作品世界が拡張しても、すべてのハニワ作品の中には必ず「青春の尊さ」が描かれています。

ただ、ここ2〜3年は、ものすごいスピードで作品表現・作品世界が変化していて、昔からのファンの方々は戸惑い、不安に思う部分も正直あったのではと思っています。結果、過去の作品と現在の作品を比較したときの変化に目がいってしまい、ハニワさんが創作人生を賭けて描いている「青春の尊さ」が伝わりづらくなっているのではないか、と感じていました。

そこで、過去10年間のハニワ作品一つひとつから、創作哲学が感じられるシーンを選び出し、それらを凝縮した場をファンの方々に届けることで「10年間変わらない創作哲学」をファンの方々に再認識いただき、安心してもらえるのではないかと思ったんです。

アートワーク展というハニワさんにとって初めての作品表現を提案したのは、新しい作品表現を追求する姿勢もまた「ハニワらしさ」だと考えたから。また、アカツキが創作パートナーとしてハニワ作品の可能性を広げる上で、アカツキがこれまでゲームやリアルイベントで培った「インタラクティブなエンタメ体験」の創出ノウハウが活かせると考えたからです。ファンと共につくり出す、インタラクティブな青春音楽体験の創出。これが、アカツキがハニワさんの創作活動の可能性を広げるためにできることではないかと考えました。

デジタルで情報を発信することの多いハニワさんが、リアルを介して情報発信を行うことで、話題性が生まれ、ファンの関心を効果的に喚起できるのではないかとも考えました。アートワーク展という独特の閉じた空間の中で、10年間の創作の歴史を“浴びる”ように体感することで、よりファンの方々に「10年間変わらない創作哲学」を体感いただけるのではないかという考えもありましたね。

HW アートワーク展は、今まで支えてくれたファンの皆さんに感謝の意を伝えるとともに、HoneyWorksをより広く・深く知って楽しんでいただく場にもなりました。昔から動画を観てくれていた方、最近知ってくれた方、両方に楽しんでもらえる企画にしていただきました。

ハニワさんの哲学は、一貫して「青春の尊さ」を描くこと。「青春の尊さ」は「全力を尽くした先に待っている人生で初めて見る光景」と言い換えることができる。(速水)

ミュージックビデオに登場するモチーフやメッセージを、体験コンテンツに変換

―ファンに愛されてきた動画コンテンツを、リアルな体験コンテンツへと変換した「ハニワのアトリエ展」。どのような点にこだわりましたか。

速水 展示エリアは大きく2つに分かれていて、「アトリエROOM 1〜ハニワの軌跡〜」は、これまでのミュージックビデオのほぼ全ての原画を公開し、初期の作品から最新の作品までを順に追うことができる構成にしました。

一方、「アトリエROOM 2〜拡張するハニワの世界〜」では、劇場版アニメ、テレビアニメの原画に加えて、今夏発売予定のゲームの制作資料も限定公開しました。過去から未来へ、一方向からの伝達からインタラクティブな体験へと、創作活動が拡張していくことを直感的に理解できるよう体験設計をしました。

展示エリア全体を通してこだわったことは、展示作品一つひとつにクマパン(HoneyWorksの作品に登場するパンダとシロクマのキャラクター)のコメントをつけて、ハニワさんのコアにある哲学を感じてもらえるように心がけました。

ハニワさんが一貫して描き続けている「青春の尊さ」。ハニワさんの10年間の活動は、メディアや手法を拡張することで、より多くの人に、より多様な形で「青春音楽体験」を届けようとしてきた軌跡そのものです。アートワーク展を皮切りに、ゲームをはじめとする他の周年活動へとつなげていく構想こそありましたが、決してプロモーション目的のイベントではなく、ハニワ作品のコア哲学を伝えることを主眼に置きました。

HW 過去作品の展示はもちろん、来てくださった方が参加できるコーナーがあるのが良かったです。ハニワ作品にゆかりのある「神社」を実際につくっていただいたり、自由に描けるメッセージボードがあったり。これらによって、ファンの方に展示をより一層楽しんでいただけたように思います。

「おみくじを引く、結ぶ」「絵馬に願いを書く、かける」「鈴を鳴らす」などアクティビティの多さが、神社を体験モチーフに選んだ理由の一つ。

アートワーク展は支えてくれたファンの皆さんに感謝の意を伝える意味があった。 ファンの方がただ見るだけでなくアートワーク展に「参加」してもらうことができて本当によかった。(HW)

速水 アートワーク展の中に「願い重なるハニワ神社」をつくったのは、作中に神社がよく登場することに加えて、体験コンテンツに適したモチーフだと思ったからです。アートワーク展というものは、どうしても「見る」という行為が主となり、集中力がなくなったり、疲れが溜まったりして、展示を思うように楽しめなくなってしまうことがあります。そこで今回は、「神社」というモチーフを活かした「おみくじを引く、結ぶ」「絵馬に願いを書く、かける」「鈴を鳴らす」などの行動を展示の中盤に挟むことで、来場いただいた方々がリフレッシュして、最後までアートワーク展を存分に楽しめるよう工夫しました。

また、会期は12月~翌年1月で、合格祈願や新年の誓いなど、ちょうど願掛けをしたくなるシーズンでもあったので、神社というモチーフは「作品世界」「体験設計」「季節性」の3つの要素を考慮したときに最適なモチーフでした。
来場者の皆さんには、リフレッシュいただいた状態で、ハニワさんの人気シリーズ『告白実行委員会 恋愛シリーズ』の新作のフルアニメーションミュージックビデオ『東京オータムセッション』をご覧いただけたと思います。

人気声優を多数起用して制作した完全新作ミュージックビデオ「東京オータムセッション」。アートワーク展が、そのお披露目の場となった。

HW シアターの大画面と綺麗な音で視聴すると、まるで映画のような感覚があり新鮮でした。また、アートワーク展だけで見られるパネルイラストを2作、水彩やアクリルガッシュなどのアナログ画材を使用して描かせていただきました。普段の活動ではなかなか得られない機会で、展示ならではの試みでした。

嬉しかったのは、懐かしいイラストをたくさん見ることで、「色んなことがあったなあ…」と懐古できたこと(笑)。初期の手焼き同人CDという激レアアイテムまで飾ってあり、感動しました。このアートワーク展を皮切りに、ゲームや楽曲、ミュージックビデオなど、他のコンテンツも盛り上げていきたいなと改めて思いました。

速水 ハニワさんはSNS上のファンコミュニティが強いので、アートワーク展を訪れたファンの皆さまが、会場で感じたことや体験したことをSNSで積極的に発信してくれたのも良かったです。この情報拡散の流れは当初から想定していたことではありますが、一人のコアファンの方にハニワさんが大事にしていること、これからも大事にしていくことをしっかり伝え、それを自然に伝播させていくことができたと思います。

ミュージックビデオの原画に加え、手焼き同人CDなどのレアアイテムも展示。HoneyWorksの10年間の創作活動をまるごと“浴びる”ことができる展示とした。

アカツキとHoneyWorksとで共同制作した「告白実行委員会 恋愛シリーズ」のメインキャラクターが登場するキービジュアル。このビジュアルを使用したグッズは大好評だった。

 

コンテンツを「体験」として成立させるには、通底する哲学やメッセージが必須

アートワーク展では、今夏以降に発売予定の初の公式リズムゲーム「HoneyWorks Premium Live」の原画も公開。ハニワ作品のインタラクティブコンテンツ化に対する、来場者の期待感を醸成した。

―アートワーク展が話題になったことも奏功し、夏以降に配信予定のリズムゲーム「HoneyWorks Premium Live」に事前登録が殺到しています。ゲーム化にあたってのこだわりは。

HW どうすればキャラクターたちが生き生きして見えるか、共感をもって応援してもらえるかが何より大切ですから、キャラクターの喋り方・言い回しなどシナリオにはかなりこだわっています。ニュアンス一つでユーザーの受け取り方が大きく変わるので、丁寧に監修させていただきました。結果、キャラクターたちの個性がしっかり表現できたと思います。

制作過程を拝見していて嬉しいのが、ミュージックビデオではモノクロだった部分がフルカラーになっているところ。あと、ゲームのためにデフォルメされたキャラがめちゃくちゃかわいい(笑)!

リズムゲームとしての難易度が結構高いのもポイントで、ハニワのファンの方はもちろん、リズムゲーム好きの方にも楽しんでもらえそう、ハマってもらえそうだなと感じています。

速水 ハニワさんのおっしゃるとおりで、ゲームとして“きちんと難しい”、つまりゲームとしてのクオリティを担保することは、原作から拡張させたコンテンツを、より幅広い方に支持してもらう上で、非常に大切なポイントだと思います。

アートワーク展と同様、ゲーム制作においても最も重視しているのはハニワさんの「哲学」。「HoneyWorks Premium Live」はハニワさんのミュージックビデオを使ったリズムゲームですが、ミュージックビデオを通じて届けていた青春音楽体験を、ゲームというインタラクティブな体験へと変換することで、ハニワの作品世界をさらに拡張できると考えています。

アカツキも、「ハチナイ(八月のシンデレラナイン)」などのゲームを通じて「青春の尊さ」を伝えてきた経験があるので、コンテンツ込められたメッセージや、それをユーザーに伝えることの意義に深く共感しながら制作を進めています。また、外部パートナーとの連携に積極的なハニワさんとご一緒することで、アカツキの創作のレベルも上がっていくのを感じています。

―初めはミュージックビデオだった作品が次々と「体験」に変換されていますが、HoneyWorksさんから見て、アカツキや速水さんの印象は。原作者として不安に思ったことなどはありますか。 

HW 不安に思ったことはありません。HoneyWorksの世界観を守りながら面白いアイデアを次々と出してくださるので、むしろいつも楽しみです。早く、たくさんの方々にゲームをプレーしてほしいですね。

打ち合わせの内容が細かくて、「コンテンツづくりに本気」なんだということ、また“ハニワ愛”を強く感じ、感動しています。ハニワが10年間ともに歩んできたキャラクターを壊さないように、細心の注意を払いつつ、これまでにないアイデアを出す手は緩めない。今後の作品づくりにおける、力強い味方だと思っています。

速水 ありがとうございます。ハニワ作品というIP(知的財産)を生かしたさまざまな創作活動をご一緒するにあたって大切なのは、やはりファン目線を忘れないこと。ですから、ハニワさんのライブに通ったり、コミケの列に並んだりして、ファンの方たちと同じ目線で作品に触れるよう心がけています。

プロデューサー視点とファン視点を行ったり来たりすることで、これまでにない魅力的なコンテンツ企画が実現する。

―最後に、コンテンツを体験へと昇華する上で重要なこととは何でしょうか。また、原作者であるHoneyWorksさんにとって、コンテンツを体験化することの意義とは。

速水 原画イラストが豊富にある作品は、一見するとアートワーク展的なものに変換しやすいように思えます。しかし、たくさんの作品を展示しているだけで、お客さんにとって「体験」になっていないケースも多いのではないでしょうか。「体験」に必要なのは、やはり一貫した哲学やメッセージであり、それを具現化するために、作品そのものや、そこに出てくるモチーフを効果的に使うこと。ハニワさんの一貫した哲学こそが、満足度の高い体験イベントをつくることができた最大の要因だと考えています。

HW HoneyWorksのコンテンツには、ミュージックビデオという形で触れている方がほとんどだと思います。僕たちは、ミュージックビデオの楽曲を演奏するライブツアーを定期的に開催しているのですが、今回新たな試みとして実施したゲームとアートワーク展は、ライブと同様、より深く・濃く作品世界に触れてもらえる体験になるのかなと。

HoneyWorksのこれまでの歩みを振り返ったり、深堀りできる「体験」を、形にとらわれることなく提供することで、ファンの方に作品世界をより深く楽しんでもらうことができ、「今までありがとう」「これからもよろしく」という僕たちの気持ちを伝えられるんじゃないかなと思います。

ミュージックビデオ、楽曲、ライブツアー、アートワーク展、ゲーム……IP(知的財産)としてのHoneyWorks作品は、10周年を機に、これまで以上に大きな広がりを見せている。

文:塚田 智恵美 写真:杉能 信介  編集:鶴岡 優子