『Behind the Frame』デザイナーが語る、物語への没入のために張り巡らされた工夫
2021.08.25
全3回にわたってお送りする、本シリーズ「アカツキ台湾 これまでとこれから」。第1回目・2回目では、アカツキ台湾の役割やカルチャーをお伝えしました。
第3回目では、アカツキ台湾が立ち上げたゲームスタジオ「Silver Lining Studio」が開発し、2021年8月25日にSteam/モバイルでリリースされるゲーム『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』(以下、Behind the Frame)を取り上げます。
第1回 アカツキ台湾が担う「海外展開」と「多言語カスタマーサポート」の重要性とは
第2回 海外進出から7年。独自に築き上げたアカツキ台湾のカルチャー
セル画風アニメーションの世界観のなかで謎を解く『Behind the Frame』
午前の光が差し込むアトリエ、心安らぐBGM。『Behind the Frame』を起動した先にはそんな穏やかな光景が広がり、主人公が飲むコーヒーの香りさえ漂ってきそう。
どこか懐かしいセル画風のアニメーションが紡ぐ世界のなかで、プレイヤーさんは主人公の画家としてスケッチ、着色、描き足しなどを行って絵を完成させ、作品とそこに秘められた思い出をつなぎ合わせて謎を解いていきます。そこから見えてくるのはどのような物語でしょうか?
NYX Game Awards2021でベストインディーゲーム賞、ベストモバイルゲームストーリーテリング賞、DevGAMM2021でベストモバイルゲーム賞など数々の賞を獲得し、発売前から注目が集まっていた『Behind the Frame』。このコンセプトや世界観はどのように生まれたのでしょうか? 開発チームのプロジェクトリーダー兼デザイナーのWeichen Lin さんにお話をうかがいました。
林 威辰 Weichen LinSliver Lining Studio プロデューサー
Disney Consumer Product & Publishing Dpt. コンセプトアーティスト、絵本・イラストレーション会社のキャラクターデザイナー、ゲーム会社のアートディレクターを経て、現在はゲームやアニメーションのコンセプトデザインやシーンデザインを専門としている。 2017年にアカツキ台湾に入社、その後「Sliver Lining Studio」に参加し、現在はゲームプロジェクトのプロデューサーを務める。 趣味は絵を描くこととゲーム。
世界観、描画による謎解き、音。すべては物語への没入感を生み出すために
―『Behind the Frame』は紹介ページやトレーラー動画を見る限り、以前はあまりなかったタイプのゲームに思えます。どのようなゲームなのでしょうか?
Weichen 『Behind the Frame』はストーリーと没入感に力を入れた謎解きゲームです。“脱出ゲーム”と絵を描きながら謎を解く“ペインティングパズル”の要素が楽しめます。
メインストーリーは、一人の画家が自分の絵や人生に欠けている色を探し求める日常を追ったものです。彼女は時折コーヒーや朝食の休憩を取りながら、筆を動かし、徐々に記憶を取り戻していく、というのがゲームの主な流れですが、彼女が描くゲーム内のすべての絵画には、物語があり、それが謎解きの鍵になっているのです。このメインストーリーを支えるゲームシーンの表現にもこだわっていて、いくつかのシーンに2D 360°パノラマを採用しました。
―雑多だけれど落ち着ける雰囲気の部屋、開放感のある丘など、すごくきれいで暖かみのある世界観ですね。
Weichen 主人公の部屋は1980年〜1990年代頃のパリの画家のアトリエの資料を参考にしています。パソコンはあるけれど携帯やスマホはまだない、そんな時代のレトロで落ち着いた雰囲気をつくりたかったんです。
2D 360°パノラマはきれいなだけではなく、プレイヤーさんが主人公のすぐそばに立っているかのような感覚を生み出すことで、ゲーム内のキャラクターとプレイヤーさんとの間の感情的なつながりを強化するねらいもあります。アニメーションはセル画風・油絵風を組み合わせたスタイルにし、感情や情景を豊かに描き分け、映画のワンシーンを見ているかのような表現をめざしているので、ぜひ体感してほしいですね。
―このような世界観の中で、「主人公として絵を描く」というのはどういうことですか?
Weichen “タッチするだけ、クリックするだけで絵が描ける”という描画アクションではなく、プレイヤーさんが実際に筆を動かすようなアクションをすることによって絵を描けるようになっています。
具体的には、元の絵をみてプレイヤーさんがキャンバスのどこにどんな色で描き足すべきか考え、自由に筆を動かして塗ることができるパズルもあります。それが正解なら、プレイヤーさんの筆致は元の絵に馴染み、謎解きのヒントが出現する、という仕組みになっていて、ストーリーや謎解きとプレイヤーさんの「絵を描く感触」が両立するようになっているんです。
映像技術を駆使して絵の具の垂れや筆致などをよりリアルな体験にすること、そしてゲームとして煩雑な操作にせず直感的に遊べるようにすることを両立するためにテストプレイを重ね、メンバー間でのディスカッションを経て納得のいく操作感を完成させました。
―あらゆる面で没入感や臨場感を意識しているのですね。
Weichen ゲームの主人公とプレイヤーさんが同じ目線でストーリーを追って、エンディングを迎えた時に「こういうことを伝えたかったのか」と言葉ではなく感覚で理解できるところは、私もすごく気に入っている点です。
Weichen ゲームの世界観やキャラクターの感情、ストーリーにプレイヤーさんをどうやって引き込むかは、私たちの大きな課題でした。ここまでにお話ししたアニメーションや絵を描く仕組みのほかにも、効果音にも力を入れています。ヘッドフォンを装着して遊んでいただけるとさらに臨場感を味わいながら謎解きが楽しめると思いますよ。
―すごくリラックスできそうなゲームですね。『Behind the Frame』の開発が立ち上がったきっかけはなんですか?
Weichen きっかけは「 90 分の休憩時間に何をしたいのか?」というシンプルな質問でした。チームメンバーで話し合った結果出てきたのが、「映画を見る」「小説を読む」「ゲームをする」の3つです。『Behind the Frame』はその3つの要素をすべて楽しめるゲームにしよう、というアイデアから生まれています。
そこから、チームのメンバーは『Behind the Frame』が持つ“人生”、“愛”、“思い出”の体験をどうやってプレイヤーさんに届けるかを考えてきました。2D 360°パノラマの技術を発見し、「脱出+ペインティングパズル」というゲームの仕組みを思いついてから、この物語を新しい視点で展開するようになり、『Behind the Frame』は完成しました。
「Silver Lining Studio」が目指す姿と台湾のインディーゲーム事情
―『Behind the Frame』はチーム全員のアイデアから生まれたんですね。ゲームを開発したアカツキ台湾の「Silver Lining Studio」はどんな組織でしょうか?
Weichen アカツキ台湾はこの連載の第1回、第2回で語られたようにアカツキ台湾ならではの武器を活かして実績を積み上げてきました。そのなかで独自のゲーム開発にもチャレンジしたいと考え、2019年に「Silver Lining Studio」を発足しました。現在、2人のゲームデザイナー、2人のプログラマー、4人のアーティストの8人のメンバーがいます。みんな「このゲームをもっと良くしたい」という気持ちが強く、完璧主義なのでまとめあげるのは大変(笑)。でも、上下関係なく誰もが意見を言い合えるとても良いチームです。
スタジオ名は英語のことわざ“Every cloud has a silver lining.(どんな不運にも希望の兆しがあるものだ)”に由来していて、心温まる物語の力によってプレイヤーさんを希望に導くスタジオでありたいと願っています。
―「Silver Lining Studio」は「Indie Game Brand / Developer」と名乗っていますが、台湾でのインディーゲーム※2業界の特徴はありますか?
Weichen 台湾は日本や欧米に比べて、大手のゲームメーカーやゲームメディアが少なく、開発者やゲーマー個人が立ち上げて独立した開発組織やSNSでの意見交換が多いのが特徴です。
最初はそういったゲーム関係者とどのようにコミュニケーションをとればいいのか分からなかったのですが、実際に連絡をとってみると彼らはゲームに対する情熱を持っていて、台湾発のゲームのために努力していることがよくわかります。私たちもそこから多くの実践的な開発やマーケティングのアドバイスを得て、ノウハウをお互いに共有することができました。
※2インディーゲーム:少人数・低予算で開発されたゲームのこと
―モバイルゲームやコンシューマーとはまた違う開発方法になるんですね。「Silver Lining Studio」がこれから目指したいことはなんですか?
Weichen 今、私たちは『Behind the Frame』の次のプロジェクトの方向性を決めるために話し合いやブレインストーミングを行っています。『Behind the Frame』での経験が次のプロジェクトに引き継がれ、将来的には次のゲームが『Behind the Frame』を超えるものになることを願っています。
―ありがとうございます。最後に、『Behind the Frame』をこれからプレイする方、「Silver Lining Studio」の次回作を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
Weichen 心温まる謎解き体験ができる『Behind the Frame』をお楽しみください。また、皆さまからのご意見は、私たちの貴重な開発のモチベーションや方向性となりますので、よりオープンに議論できることを楽しみにしています。 待ちに待った新しい作品を、早く皆さんにお届けしたいと思っています。
https://silverliningstudio.co/Behindtheframe/jp/index.html 【ダウンロード】
iOSはこちら
Androidはこちら
Steamはこちら
【そのほかのプラットフォームでも配信中】
プラットフォーム一覧
台湾、香港、マカオ、日本、韓国以外の方はこちら
【取材後記】
暖かい雰囲気で、やさしい気持ちになれる『Behind the Frame』。素敵な世界観の裏にはこれだけの工夫やこだわりが隠されていたのですね。触っているだけでも癒しになるゲームなので、皆さんもぜひ遊んでみてください。
代表が変わり、また新たなフェーズとなるアカツキ台湾。これからの活躍がとても楽しみです!
第1回 アカツキ台湾が担う「海外展開」と「多言語カスタマーサポート」の重要性とは
第2回 海外進出から7年。独自に築き上げたアカツキ台湾のカルチャー
文/編集:大島 未琴 翻訳:Angdres Wu Shino Shinohara
※掲載情報の訂正
2021年9月1日 19:00修正
『Behind the Frame』に使用されている楽曲に著作権侵害の疑いがあることが発覚したため、YouTubeリンクを削除、ならびにサウンドトラックについての説明を修正させていただきました。