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香田哲朗×篠塚孝哉がつくり出す「価値のエコシステム」とは

2020.12.08

ソーシャルデザインをテーマにした国内最大級の都市フェス「SOCIAL INNOVATION WEEK 2020」。11月7日から9日間にわたって行われ、気鋭のクリエイターや起業家たちがそれぞれの知見・経験を共有した。イベント5日目には、アカツキ代表取締役CEOの香田哲朗とTASTE LOCAL代表取締役社長の篠塚孝哉氏が「新しい価値観の見つけ方」をテーマに対談。「てっちゃん」「シノ社長」と呼び合う二人から、果たしてどんな意見が飛び出したのか。

金山淳吾 Jungo Kanayama一般財団法人渋谷区観光協会 理事

電通、OORONG-SHAなどを経てクリエイティブアトリエTNZQを設立。「クライアントは社会課題」というスタンスから、クリエイターやアーティスト、企業などによる共創事業で社会課題解決に取り組む。2016年より一般財団法人渋谷区観光協会の代表理事として渋谷区の観光戦略・事業にも携わる。

篠塚孝哉 Takaya Shinozuka株式会社TASTE LOCAL 代表取締役社長

2007年にリクルートに新卒入社。2011年に株式会社Loco Partnersを創業し、代表取締役に就任したのち、2013年に宿泊予約アプリ「Relux」をローンチする。2020年3月同社を退任し、2020年4月にECサービス「TASTE LOCAL」をリリース。「シノ社長」名義でYouTuberとしても活動。

香田哲朗 Tetsuro Koda株式会社アカツキ 代表取締役CEO

筑波大学工学システム学類卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。2010年にアカツキを塩田元規と共同創業し、エンジニア兼ディレクターとしてモバイルゲームの開発を牽引する。モバイルゲーム事業部の事業部長兼人事担当役員を経て、2018年よりアカツキライブエンターテインメントの代表を兼任。一般財団法人東京アートアクセラレーションの代表理事も務める。

対談のモデレーターを務めたのは、渋谷区観光協会の代表理事・金山淳吾氏。香田が代表を務める、アーティストの支援、アートイベントの企画などを行う一般社団法人 東京アートアクセラレーションでは、篠塚氏とともに理事を務める。登壇する三人は公私ともに懇意な間柄。ざっくばらんな雰囲気のなか、ゲーム、旅行、アートなど縦横無尽に語り合った。

二人が時代を先取りして提示した「新しい価値」

金山 まず、お二人の簡単な経歴や近況を教えてください。

篠塚 僕は2007年にリクルートに新卒入社し「じゃらん」事業部に所属していました。2011年に独立して会員制宿泊予約サイト「Relux(リラックス)」を運営する株式会社Loco Partnersを立ち上げました。

現在は、全国各地の美味しいものが購入できるECサービス「TASTE LOCAL」を運営しています。ローンチのきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大によって窮地に立たされている飲食店や宿泊施設を支援するため。コロナの影響が現れ始めたころ、じゃらんや「Relux」でお世話になっていた方々が「客足が途絶えて本当に困っている」と、連絡をくれたんです。

話を聞いていて、ふと「宿ってお土産があったよな」と思ったのが「TASTE LOCAL」の出発点です。なかば勢い任せではあったんですが、おかげさまで各種メディアにも取り上げてもらい、好評を得ています。

香田 僕は社会人二年目の2010年に、大学時代の友人である塩田元規とアカツキを起業しました。その頃、iPhone3Gや3GSが出た時期と重なっていて。デバイスの普及とともに、ゲームが一気に世界中の人たちの手の中に届いていくんじゃないかと思い、ゲーム開発事業に進出した感じです。

金山 お二人の提示した「価値」に人が集まり利益が生まれていく構造ができていますよね。価値を見出す秘訣やコツはあるんですか?

篠塚 「Relux」はじゃらん時代の課題をぶつけたサービスです。例えば、宿泊予約サイトで伊豆とか箱根でエリア検索すると数千件の候補がバーっと出てきますよね。けど、それだと多すぎてどこを選んだらいいのかわからないんですよ。

そのせいか、友人から「おすすめの宿ない?」って聞かれることも多かった。そういうときは「海と山どっちがいい?」「予算はいくら?」「和室・洋室どっち?」と条件を絞っていき、3件くらいを提案するんです。すると、大半の友人がそのうちの一件を選んでくれる。

極端に言うと、人は数千件の選択肢が欲しいのではなく、信頼のおけるソースに基づいた三件が欲しいんです。

香田 アカツキはエンターテインメントという文脈を広くとらえているというか。YouTuberとかライバーとかエンタメがどんどん多様化していくなかで、デジタルやデザインの力を使って元々あった体験をアップデートしていく展開の仕方なんです。

事業や投資のなかには上手くいったもの、いかなかったものがあるんですが、やっぱり上手くいっているものって「わかっていたことをやっている」んですよね。アカツキではよく「解像度」って言ってるんですけど。

例えば、金山さんが住んでいる街の話だとして、自宅のある通りから一本別の通りでも、そこを歩いている人の数が何となくイメージできますよね。データにするのは難しいんだけど、その「何となくわかっていること」で、いろんなことができるんですよ。

ただ「わかっていること」がない人が大半だと思います。そういう人は企業で働きながら学んでいくのもいいかもしれません。新しい価値って、実験の繰り返しで見つけていくものだと思っているので。

「解像度」を高めて価値を見つける方法

金山 お二人はどうやって解像度を高く保っているんですか?

篠塚 簡単に言うと「因数分解」するんですよ。まあ、この「因数分解」という言葉自体がすでに解像度が低いんですが……。

僕の場合は「サイズ」ごとに分解していきます。最大サイズはマクロ、最小サイズはナノ。その中間にミディアムとミクロがある。こうして四分割すると世の中の事象がよく見えてくるんです。「国」で考えるなら、アジアがあって日本、東京、渋谷といった具合です。

これはビジネスに限らず、人間関係やコミュニティにも当てはまること。アート業界だってそうですよね。地球単位で見るか、東京単位で見るかによって全然別物になる。

金山 マクロからナノまで、どのレイヤーで価値を見出すんですか?

篠塚 ケースバイケースです。マクロは成長でもミディアムは非成長だったり、マクロは非成長だけどナノは成長していたり。

国内の旅行業で言うなら、マクロは成長していないんですよ。しかし、ミディアムサイズで見たらオンラインが激増している。では、そのレイヤーを「Relux」の主戦場にしよう、ということになったわけです。

香田 そういう見方ができるのは全体の1%くらいだと思うんですよね。天才のシノ社長だからできること(笑)。僕を含めた残りの99%は、世の中をあるパイで見たときに、偏差値70くらいでやっていくのがナチュラルな価値の見つけ方だと思っています。自分がユーザーとして欲しいサービスが、本当に求められていることなのかを検証したりして。

金山 やはり想像力も必要になりますよね。別業界の要素を組み込んだりするとヒントが見つかることが往々にしてあります。アカツキも幅広い業界に投資をしていますよね。

香田 事業としての投資と、活動を応援するための投資があります。業種は違っても根本は同じで、情緒的価値の経済化というか、情緒的価値が市場のドライバーになっている領域をやっていこうと思っています。この頃、世間の人たちが情緒的価値を求める傾向が強くなっている気がするんです。エンタメという領域で情緒的価値を追求しているのが僕らの事業です。

そう、今日一番話したいことがあったんですよ。ピコ太郎さんって、ある日突然人気が出ましたよね? きっかけはジャスティン・ビーバーがSNSで拡散したからなんですけど、拡散の前と後でピコ太郎さん自身は何も変わっていないんですよ。歌やダンスが上手くなったわけでもないのに、世間からの評価がガラリと変わった。

ただ、認知度が上がった時点ではまだビジネスは成立していなくて、そこからCMに出たり、CDが売れたりすると経済的価値が生まれるわけです。「価値」への向き合い方は二種類あると思っていて、一つは価値をつくり出すこと、もう一つは、それに経済的価値を還元すること。

もともとあった宿のお土産を販売する「TASTE LOCAL」も「還元」というところをサービスとして提供しているわけです。「価値」と一言で言ってもいろんな見方があるんですよね。

ゲーム業界と宿泊業界、それぞれで覇権を握るには

金山 ソーシャルゲーム業界ってレッドオーシャンだと思うんですが、ある特定のゲームが長い期間にわたって覇権を握るケースも見受けられますよね?

香田 そうですね。運用型のソーシャルゲームは市場の一般的な原理が働いているような気がします。レストランに例えるなら、いつも食材が新鮮な店は顧客満足度が高い。すると客足も増える。売上の一部で内装にも投資できるようになる。さらに顧客満足度が高まる。そんなサイクルがソーシャルゲームにもあるように感じます。あとは、市場の黎明期から進出していて、多くのユーザーを獲得しているケースもあります。

金山 コロナ禍という特殊な状況下ですが「TASTE LOCAL」は今後どこに向かいますか?

篠塚 今回の新型コロナウイルス感染拡大で顕在化したのは「来店がないと売上が0円になる」というシンプルな答えです。でも、Eコマースなら来店がなくとも売上が出せますよね。そこが時代にフィットしているんです。

すべての宿や飲食店って、工場の機能を持っているんです。大きなキッチンでシェフが料理をつくり、配膳スタッフがパッキングや配達を行う。いつかコロナが落ち着いても、オンラインというポートフォリオは残しておくほうがいいでしょう。それをサポートするのが「TASTE LOCAL」の役目かな、と考えています。

金山 「TASTE LOCAL」にどうしても欲しい商品があって、販売開始直後にカートに入れたんですが、二個買おうか三個買おうか、出し戻ししている間に売り切れになってしまったことがありました(笑)。

篠塚 Eコマースって、“デジタルデジタル”しすぎているものがほとんど。だから、「TASTE LOCAL」には八百屋とか町のスーパーマーケットみたいなコンテキストを取り入れているんです。朝市や夜市をやったりして、オンライン上のモールにリアルなワイワイ感をつくっています。金山 「TASTE LOCAL」という新たな価値を生み、そこからさらに、多くの人が思わず集まりたくなるような価値を生み出しているんですね。それが、「TASTE LOCAL」の価値を一層高めることにつながっている。価値を中心にエコシステム(生態系)が形成されているのですね。

ビジネスのアプローチでアートの価値を高める

金山 東京アートアクセラレーションについてもお話を聞いてみましょう。設立までが、非常にスピーディでしたね。

香田 2018年にマイアミの「アートバーゼル」(アメリカ最大級のアートフェア)に行ってきたんです。街全体がアートのフェスみたいになっていて、僕がこれまで知らなかったダイナミックなアートビジネスを感じました。それで2019年から設立に向けて着手し始めました。

金山 アートって敷居が高くて、あまり民主化されていない世界だと思います。難しいチャレンジだったのでは?

香田 共同代表の山峰潤也さんにアート方面のことはお任せして、僕はビジネス的なアプローチでどう世間とコミュニケーションしていくかをサポートしています。

本質的な価値は作品自体にあるんですけど、経済的な価値につなげるのは売る場所やマーケティング次第です。東京アートアクセラレーションは「ANB Tokyo」という拠点もあるから、アーティストもフィードバックを得やすいんじゃないでしょうか。

篠塚 ピコ太郎さんのときみたいに、世間に認知されていないアーティストをジャスティン・ビーバーが拡散したらどうなるんだろうって考えていて。既存の作品に誰かが大きな価値を付与するっていう。

香田 アートって突きつめると人気投票なので、「私がいいと思っている作品を、その他大勢がいいと思ってくれる」かどうかなんですよね。結果的に人気のある人が発信した作品が多くの支持を集める構造がある。

人気投票でいきなり、世界に認められる可能性があるわけじゃないですか。いまは売る手段はいくらでもあるから、価値の見つけ方が大事なんでしょうね。

アートは理解できないからこそ面白い

金山 アートの裾野をどう広げていくのか、今後、東京アートアクセラレーションで模索できればと思っています。

香田 「アートはわからないとダメ」というプレッシャーから解放したいですね。現代社会の問題点の一つは、「すべてを理解しないと気持ち悪い」という人が増えていることだと思うんです。その視点をアートにあてはめると窮屈。わからないことが面白いのに。

篠塚 日本特有なのか、アートの流動性はとても低いんですよ。コレクターの倉庫に眠ったままになっている作品がたくさんある。そういった作品の流動性を上げる基盤が築ければ、ビギナーもアートに触れる機会が増えるんじゃないでしょうか。

金山 企業のエントランスや商業施設の一角が美術館化する時代が来るかもしれませんね。

香田 生活導線のなかにアートが入ってくると一気にハードルが下がりますよね。美術館に行かなくとも、日常的にアートに触れられるのが理想です。

金山 セッションの視聴者から、アートに関する質問があります。「どうしたら美意識を鍛えられるのか?」とのことですが、いかがでしょう?

香田 「好き」か「嫌い」かしかない気がします。僕の場合は、山峰さんのようなアートに造詣が深い人と答え合わせはしますけどね、「この作品いいと思ったんですけどどうですか?」って。自分の答えと世間の答えを答え合わせするのがいいんじゃないでしょうか。

篠塚 作品をたくさん見たり、買ってみることですね。そうすると自分の好きな作品がわかってきます。レプリカなら比較的安く購入できますし、実際に家に届いたら「あぁ、やっぱりいいな」となり、また新たな作品を買いたくなる。そういうサイクルを回すのが一番いいですよね。

金山 さて、ここでクロージングとさせていただきます。「新しい価値に経済性を与える」ことに成功しているお二人にお話しいただきました。どうもありがとうございました。

取材日 2020年11月11日(水)

ライター:名嘉山 直哉 カメラマン:小田 光二 編集:奥井 佳奈