うんこミュージアム大ヒットの舞台裏「世界にパラダイムシフトを」(後編)
2019.04.04
オープンからわずか1週間で来場者数1万人を超える大ヒットとなった「うんこミュージアム YOKOHAMA」は、一体どのように生まれたのか?
仕掛け人である面白法人カヤック プロデューサー 香田 遼平氏とアカツキライブエンターテインメント うんこミュージアム総合プロデューサー 小林 将が語る誕生の舞台裏。その後編をお届けする。(前編はこちら)
生みの苦しみ。 固定観念を洗い流した「うんこ合宿」
小林 うんこミュージアムにGOは出たものの、具体的に何をするか決めるのは難儀しましたね。正直に言うと昨秋までその状態で、日に日に緊迫していきました。
香田 実際にミュージアムを実現できることになって喜んだのもつかの間、すべてが手探りで。
小林 転機となったのは、カヤックとアカツキで開催した「うんこ合宿」。 どうしてうんこは面白いのか、僕らはどうしてうんこに対して取り組んでいるのかを深掘りしようと、メンバー10人が集まり、徹底的にディスカッションした。状況を打破し、本質的なところへと近づこうと、みんな必死だった。
香田 うんこが面白いということはわかっているけれど、メンバーそれぞれ「うんこのどこに面白さがあるのか」の考え方が違いすぎているのが見えてきた。それが徐々に重なり合って企画のタネがまとまっていく。そんな合宿でした。
小林 そもそも、うんこはとてもパーソナルなもの。子どものころは「うんこ」と言うだけで爆笑していたのに、大人になるとその親しみを失い、うんこで笑ってふざけることをタブー視するようになる。大人になると、もう誰かとうんこの話をしなくなってしまう。
そんなことも話し合って、うんこに対する固定観念に気づけました。その観念を水に流して、世の人々を古いうんこ観から解放したいという気持ちとともに、クリエイティブの方向性が定まっていった。
香田 クリエイティブの柱になったのが、「うんこをオープンに扱ってみること」。床に映し出されるうんこを踏んでみたり、「うんこ」と叫んでみたり。
うんこでやっちゃいけないと思われていることを、とことんお客さんにやってもらおうということになりました。
小林 合宿で最大の収穫は両社の壁を取り払い、なんでも話し合えるチームができたことですね。
この日を境に女子高校生や女子大学生をコアターゲットに設定。固定観念を洗い流すテーマで、コンテンツ構成を考えていきました。
施設を出たときには、うんこに対する考え方や物の見方、今まで住んでいた世界が変わって見える。そんな場所を目指そうと。
日本を飛び出してエンターテインメントの本質とは何なのかを本場で探るために、チームでLA視察ツアーにも行きました。作る側も見る側も成熟しているアメリカのエンターテインメントにふれ、自分たちが目指す方向を確かめられたし、エンタメとしての体験を作りこむのにこだわっていこうとお互い強く認識できたのも、その後の大きな力になりました。
「それ、既存のうんこ観じゃない?」研ぎ澄ましていくプロセス
小林 「どこかから面白いものを持ってきました」は通用しない。プロデューサーの僕らは、とにかく既存のうんこ観の反対を取りにいくというコンセプトからブレないように気を配っていました。
それでも、既存のうんこ観が強すぎて狙うべきコンセプトやメッセージから離れてしまう。既存イメージに流されるというか、安易な方向に行きたくなるのはわかるけど、コンテンツとしてのインパクトはどんどん下がってしまいます。
香田 うんこ自体がすでに面白いので、ミーティング中の会話は必ず盛り上がりますが、とくに最初は汚い系のアイデアが多かったですよね。僕ら作っている側は、そこに引っ張られやすいんです。
そのたびに小林さんが「それ、既存のうんこ観じゃない?」と言って、方向修正をしてくれました。
そのアイデアは面白そうに見えるけれど、今回のコンテンツとして本当に面白いのかを考えることを意識して、研ぎ澄まされていきましたね。
小林 そうですね。そんなやりとりをしました。完成した個々のコンテンツが純粋に楽しいのはもちろんですが、それぞれ接したときに生まれる自分の感情を見つめられるものにしたかったし、実際このミュージアムで実現できたのではないかと思っています。
恥ずかしいのか、気持ちいいのか、スッキリするのか。今までにない自分の感情と向き合える場所なので、ぜひ躊躇せずに体験してほしいです。うんこと写真を撮ったり、「うんこ」と叫んでみたり、ここは何でもありです。
真面目にうんこを愛し、面白がる情熱がチームの強さに
小林 これまで、クリエイターをはじめ、多くの方々に会って話をしてきて、やはり面白いものを作るには作り手の情熱が不可欠だということが改めてわかりました。
うんこミュージアムは、カヤックさんと協働で作りましたが、カヤックのものづくりに対するこだわりと自由な発想で面白いものを生み出そうとする姿勢、常に期待を上回るアイデアを出す力がすごいと思いました。香田さんを始めカヤックの皆さんとタッグを組めたから、これほど多くの方々に喜んでいただけるうんこミュージアムになったのだと感謝しています。
香田 僕たちにとっても、めちゃくちゃ楽しい仕事になりました。これだけのミュージアムですから、一緒に作っていかないといいものにはなりませんでしたから。
小林さんのチームとは何でも話せる関係を築けて、一緒に作っている感覚が強くありました。真面目なものを作るときに一生懸命ふざけられる感性など、アカツキとカヤックの文化が似ていることもよかったのでしょう。
僕らのいいものを作ろうと目指す道と、小林さんやアカツキの皆さんが目指す道は同じ方角を向いていたことが成功へとつながったのだと思っています。
小林 文化に似ている部分があり、その上で両社が持つ力が各々違うのが強みになった。LA視察まで一緒に行くほどお互いがこのプロジェクトにコミットして、ここまで進んで来られたことは感慨深いです。
カヤック、そしてアカツキ。うんこの向こうに描く未来は?
香田 今、想定を超える「うんこミュージアム」大ヒットという状況で、うんこというコンテンツの持つ力に圧倒されています。カヤックとしては、うんこを題材にして今後どこまでエンタメを広げられるか、チャレンジしていい領域なのではと考えています。
小林 そうですね。うんこを切り口にした広がり方はたくさんあると思います。LA視察をしてみて感じましたが、うんこをエンタメのコンテンツにするという発想は、日本人ならではだし、さらに僕らだったから生まれたものだと思っています。
ミュージアムは期間限定企画ですが、うんこの未来はまだまだありそうです。
香田 うんこでテレビに出られるとは思っていなかったので、今これだけメディアに取り上げてもらい、海外でも興味を持っていただけているのはうれしいです。
面白いと思うことを諦めず突き詰め、みんなが面白がってくれる。この仕事をやっている最高の醍醐味。
チャレンジできて本当によかったです。
小林 今後は、カヤックさんのような優れたクリエイティブ集団とのパートナーシップをはじめ、面白いことを考えている個人クリエイターたちにも光を当てていくことを考えています。才能ある人が表現する機会がなかったり、資金がなかったりして、埋没していることが多いと感じているからです。
ALE-BOXがプラットフォームとなって、アソビルから独立した形で全国そして世界へと展開する構想も描いています。クリエイターたちのアイデアを形にする。世の中がもっと面白くなる。多くの人が世界を創っていく面白さに目覚めるのではないでしょうか。
おかげさまでうんこミュージアムが大ヒットしたので、これを大きな足がかりとしてまた尖ったことをやって行きたいですね。日本よりさらにエンタメ感度が洗練されていてベースラインが高いアメリカなど、海外で大ヒットするコンテンツを提供できればと夢を持って今後もやっていきたいと思います。
うんこミュージアムYOKOHAMA
https://ale-box.com/unkomuseum/
ALE-BOX
https://ale-box.com/
執筆:松田 剛 撮影:大本 賢児 編集:坂井 朋子