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名作ゲームの裏に「シナリオ」の妙技あり

2020.05.29

レッドオーシャンのスマートフォンゲーム業界。競合ひしめく中、“消えない”タイトルをいかにして生み出すか――そうした中、「ゲームシナリオ」の重要性に改めて注目が集まっている。優れたゲームシナリオとは?今求められているゲームシナリオライター像とは? 株式会社Qualia Writers 代表の下村 健氏と、アカツキ シナリオチーム ROOTSリーダーの水野崇志が意見を交わしました。

下村 健 Ken Shimomura株式会社Qualia Writers 代表 / シナリオライター

アニメ化した『チェインクロニクル』『陰陽師』『天華百剣 -斬-』や『メモリーズオフ -Innocent Fille- 』など、家庭用・スマホゲームの世界観/キャラ/シナリオを主に制作。最近は国内・海外問わず、企画・原作からのIP作りの仕事が増えている。

水野 崇志 Takashi Mizunoアカツキ シナリオチーム ROOTS リーダー 

複数のコンシューマーゲーム、ソーシャルゲームでの開発経験を経て2017年アカツキへ。入社早々に各プロジェクトのシナリオ担当者と共にシナリオチーム「ROOTS」を発足し、アカツキのゲーム制作のシナリオ強化を全面的に担っている。

ゲームシナリオは、「ボタンを押す」行為の背景をつくる

下村 これだけスマホゲームが増えた今、ゲームシナリオライターが追求すべきは、漫画や小説、映画とは異なる「ゲームでしかできない体験」だと再認識しています。

水野 その通りですね。「ボタンを押す」行為の背景をなすストーリーをどう設計し、ドラマ体験を生み出すか。それが、ゲームシナリオの妙だと思います。

「敵のモンスターが出てきて『戦う』ボタンを押す」のは、ゲームでは当然のことです。ただ「このモンスターは、自分の恋人を殺したモンスターだ」「このモンスターは、自分と一緒に育ってきたモンスターだ」など、モンスターと主人公の関係性が背景にあると、同じように「戦う」ボタンを押す行為でもユーザーの体験はまったく異なるものになります。

下村 ストーリーを分岐させる選択肢も、ただ選択肢を用意するだけではなく、プレイヤーが選択する際の動機や葛藤をつくるのが重要ですよね。また、「絶対に殺したくないけれど、このモンスターと戦わなければ世界が消滅する」といった具合に、ユーザーの選択によってゲーム世界に何らかの変化が起きるという全体設計をすることも、ゲームシナリオの役割です。

つまり、ゲームシナリオが担う領域は、ユーザーの体験をつくるあらゆる事柄。世界観やキャラクター設定、ストーリー構成といった物語そのものだけではなく、ゲームのシステムや配信プランといった運営方法にも及びます。とはいえ、シナリオライター側からそこまで提案しているケースは少ないのが実情のようですが……。

水野 現状、コスト観点から既存のゲームのシステムを流用して新しいゲームをつくることも多いです。そのため、既存のシステムに合うシナリオや世界観を考える機会がとても増えています。ただ、ゲームの醍醐味は、ユーザーが物語の傍観者ではなく参加者になれること。その魅力を高めるためにも、ゲームシナリオライターにしか考えられない、システムや運営も絡んだ、ユニークで魅力的な「ゲームならではの体験」を提供したいですね。

下村 そうですね。SE(音響効果)、BGM、キャラのイラスト、選択肢など、ゲームでできる表現をちゃんと連動させて、プレイヤーに「驚き」を与える体験をつくり上げたい。だから僕自身は、「今回はどんな体験を与える作品にするのか」というコアを考える、企画・原作レベルからプロジェクトに参加するケースが増えています。

市場にタイトル(作品)が増えてきたことを背景に、「差別化を図るためにシナリオに力を入れたい」「ゲームを軸にマンガやアニメなどメディアミックスも仕掛けていけるよう、しっかりとした世界観や設定が欲しい」など、ゲームシナリオの重要性が見直される動きも出てきています。ゲームシナリオライターにとっては面白いフェーズを迎えているのではないでしょうか。

特に、スマホゲームのシナリオは難易度が高い。なぜなら「毎日プレイする」という積み重ねを想像しながら、作品のコアをつくっていかなければならないからです。アニメや家庭用ゲームのシナリオは書けても、スマホゲームとなると苦戦するという人も多いようです。だからこそ、スマホゲームの体験全体を設計できるシナリオライターは重宝されますね。

「ゲームならではの体験」を提供するシナリオをつくれ

——お二人が考える「良いシナリオ」とはどんなものでしょうか?

下村 「ゲームならではの体験」を提供するシナリオ。

例えば自分はミステリーが好きなのですが、とある作品で「ゲームで用いられる、当たり前になっていたシステム」を逆手にとった、どんでん返しが仕込まれていました。メディアミックスもされているのですが、ゲーム版の面白さと衝撃には、届いていない。そういう「ゲームでしか味わえない域まで昇華されているシナリオ」は「良い」ですね。

水野 世界観やストーリーなど、シナリオそのものが「ユーザーがゲームを続ける理由」になれているものは、「良いシナリオ」と言えるのではないでしょうか。夢中になれるキャラクターを生み出せたり、心を動かす展開を描けたのであれば、今の時代なら必ずユーザーが反応をしてくれます。ユーザーの反応は非常に明確で、ストーリーに対する感想が上がっているタイトルと、そうでないタイトルははっきりと分かれます。

下村 ある作品では、キャラの散り際を非常にカッコよく描いた上で、ガチャでそのキャラと「再会(再召喚)」できる設計になっていて、「やられた!」と衝撃を受けました。ガチャというシステムとストーリーを上手く組み合わせた良い例ですね。

あとは、当たり前ですが、他の作品にはないオリジナリティがあるシナリオは、やはり「良いシナリオ」ですよね。

水野 他の作品との差別化には、いろいろな工夫が必要ですよね。オリジナリティを出す上で僕が意識していることがあるとすれば、キャラクター間の関係性もきちんと設定し描くことです。例えば、とあるキャラは、主人公や特定のキャラにだけ優しいのか、それともみんなに優しいのか。ある作品では、主人公だけでなく他キャラとの関係性も分かる掛け合いが生まれるよう、キャラ同士の組み合わせごとにセリフを書きました。膨大な数のキャラがいたので、過酷な作業でしたが(笑)。

下村 僕は選択したキャラによってエンディングが変わるような体験をつくりたいと考え、複数のエンディングをつくったことがあります。800人くらいキャラがいたので、本当は800パターンつくりたかったんですが……さすがに止められて、6パターンに落ち着きました(笑)。

結果、やはりユーザーからの反響が良くて、SNSなどを通じて「全パターンを見たい!」という声を聞けたのが嬉しかったですね。

——逆に「悪いシナリオ」とは、どんなものでしょうか?

下村 「ゲーム以外でもできる体験」になっていること。どの選択肢を選んでもストーリーが分岐せず、同じ結末にたどり着く――つまり意味のない選択肢を提示するシナリオは、その代表ですね。

水野 「目的が分からない」シナリオも同様ですね。ユーザーが次の展開に期待を持つことができないため、すぐに飽きられてしまう。ただ難しいのは、ソーシャルゲームで主流となっている売り切りではない継続型のタイトル。リリース後も運営が継続していくので、エンディングを描くわけにはいかないんです。だから、ストーリーが大きく変わるような分岐を用意したり、運営の寿命を縮めるような目的を設定できない。その条件下で、いかに面白いシナリオを用意するかがゲームシナリオライターの腕の見せ所でもあるのですが。こうした事情もあって「シナリオドリブン」の作品が出てきにくいのが実情です。

 

「ONE TEAM」の制作体制で、世界で戦えるタイトルをつくれ

下村 「ゲームならではの体験」を追究しようとすればするほど、ゲーム制作の職人たちが完全分業で制作する体制には限界があると思うんです。音、絵、システム、シナリオといったものが、一つのゲームを構成する歯車だとすれば、それぞれが上手く噛み合い、最高の効果を発揮する“煌めく歯車”をつくらなければいけません。

単に既存のシステムにストーリーを乗せ、そこに音や絵を当てはめ……というベルトコンベア式の制作体制ではなく、歯車を互いに噛み合わせていく「ONE TEAM」の制作体制をつくれて初めて、唯一無二のタイトルを生み出すことができるのではないでしょうか。

水野 分業の話ですと、「テキストを書く」ということ以外に消極的なゲームシナリオライターが増えている印象があり、一つの課題として考えています。ゲームシナリオはテキストを書けば完成ではなく、スクリプトなどによる演出やインゲームとの接続も含めて、ユーザーが実際に体験する形になって初めて完成です。スマホゲームが増えたことで、シナリオの需要が増え、書き手が増えたのは良いことでもあるのですが。シナリオを「決められた文字数やタップ数を埋めればいい」と考え惰性でこなすのではなく、ゲームシナリオ「ならではの体験」を届けることに情熱を持った職人でありたいし、そういう業界でありたい。

そのためにも、ゲームシナリオライターは、自分自身でもさまざまなゲームをどんどんプレイする必要があると思います。そうして「ゲームならではの体験」で感動した経験を積み重ねなければ、ユーザーが新しいと感じられるアイデアはなかなか出せません。

——ゲームシナリオライターに求められている力とは。また、その素養を活かせる別の職業があれば。特に「今の時代だからこそ」求められていることがあれば、聞かせてください。

水野 ライターと同じような素養を求められるほかの職業を考えると、僕は「カウンセラー」ではないかと思います。細かな言葉の端々やわずかな反応から、相手の意図を適切に汲み取り心情を想像する力。これは、ストーリーづくりやキャラ設計において不可欠なスキルだと思います。

また、SNSによるテキストコミュニケーションが流行したことで、ユーザーの言葉に対する意識は以前より敏感になっています。そんな「今の時代だからこそ」どの職種よりも一つ一つの言葉選びに、ちゃんとした意図とこだわりを持つべきとは考えています。

下村 「接客業」に求められる力とも似ていますね。人間を分析するスキル。つまり、どうすれば人が怒ったり、喜んだり、悲しんだり、驚いたりするのか、相手側に立って想像する力が必要です。

「今の時代だからこそ」求められることは……なんでしょうね。物語の構造そのものはシェイクスピアの時代から変わっていませんが、それを現代ならではの素材・モチーフに置き換えたり、今の環境だからこそ成立しうるトリックに変換していったりすることは必要かもしれません。

水野 時代性を考慮した工夫は必要ですよね。同じ高校生でも、現代を舞台に描くには「スマホを持っている高校生」を知らなければ、キャラも、ストーリーの細部も描けません。あとは、シナリオが実装される最新のデバイスに合わせて体験を設計することも求められるのではないでしょうか。スマホならではの体験とは?VRならではの体験とは?と考えていくということです。

下村 「グローバルで戦えるタイトルをつくろう!」というマインドセットも、必要になってきている気がします。これまでの日本のスマホゲーム業界は、「国内で制作し、国内で販売する」という内製・内需に偏重する傾向がありましたが、すでにライバルはグローバルに広がっている。

今後は、他国の制作会社・スタッフと協業して、グローバル市場で通用するタイトルをつくるのが、業界のスタンダードになっていくのではないでしょうか。実際、僕も2017年に中国との合作でスマホRPG『陰陽師』を制作しました。それぞれの国の強みを掛け算するような制作で、一時はグローバルにおける売上ランキングで1位を記録しました。2020年5月現在で、累計ダウンロード数は2.5億を突破しています。

水野 本当に素晴らしい結果だと思います。これも、下村さんが挑戦し続けてきたからこその結果ですよね。弊社でもシナリオでの挑戦は、積極的にしていこうと考えています。

そのための地盤づくりを、これまで社内シナリオチームのリーダーとして行ってきました。ライターの皆さんがクリエイティブに集中できる環境や仕組み作り、外部講師を招いてのシナリオ研修なども実施し、そのノウハウをどんどん活かしてもらっています。

スマホゲームの良いところは、自分が執筆したシナリオをすぐに何千・何万というユーザーに読んでもらい、その反応をリアルタイムに見られること。そんな機会は本当に貴重です。

下村 ゲームシナリオライターが育ちやすい土壌と言えますよね。なので、ライターとして成長したい人にはお勧めの舞台です。

そういう志ある仲間と一緒に、国内外さまざまなタイトルから学び刺激を受けながら、ゲームシナリオの可能性を広げていきたいと考えています。

水野 そうですね。自分たちの手で新たな名作を生み出していけるように、社内はもちろんですが、ゲームシナリオライター業界全体も盛り上げていければと考えています。

そのためにも、新たな領域にも恐れることなく挑戦していきたいと思います。

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文:塚田 智恵美 写真:樋木 雅美 編集:鶴岡 優子