新入社員研修で誕生したハイパーカジュアルゲーム「Mirror cakes」。1,000万DL突破の裏側
2021.02.10
期限は2週間ー。
予算10万円を渡され、二人一組でハイパーカジュアルゲームを作り、実際にリリースして広告も打ってみる。
そんな新入社員研修からスマッシュヒットしたゲームが「Mirror cakes(ミラーケーキ)」。リリースから約3ヶ月で1,000万DLを突破し、現在は約200の国と地域でプレイされています。
「Mirror cakes」を作った新入社員1年目のかほさん、あつきさんと、研修をサポートとした先輩を代表してけいとさんに開発の裏側をききました。
(聴き手:VOICE編集室 鶴岡)
「Mirror cakes」を作った新入社員の二人
かほ 皆川 佳歩 Kaho Minagawa
2020年新卒入社。現在のメイン業務は「UNI'S ON AIR(ユニゾンエアー)」だが、「Mirror cakes」も兼務している。好きなものはバンドカルチャーと音楽、サービスと漫画、お茶ハイです。多分、骨格ナチュラル/ブルベ冬です。
あつき 池田 篤紀 Atsuki Ikeda
2020年新卒入社。「Mirror cakes」がスマッシュヒットし、研修後は正式にBuddyに配属。好きなものは音楽とゲーム、お笑い、ダンスです。多分、深爪派/乾燥肌です。
研修をサポートした先輩
けいと 佐藤 恵斗 Keito Sato
2016年に新卒入社。運用IPタイトルのプランナーを経験した後、「八月のシンデレラナイン」チームに参画し、ディレクター、プロジェクトリーダーを担う。また現在はスタジオ「Akatsuki Buddy」を設立し、スタジオヘッドを務める。
INDEX
ミッション「CPI最安値を目指しHCゲームを開発せよ!」
ーそれでは早速「Mirror cakes」がどうやってできたのか、聞かせてください。これは新入社員を対象にした「ものづくり研修」でできたゲームなんですよね。どんな研修だったんですか?
入社後、企画職とエンジニアで別々に研修を受けた後、合流して行う最後の研修が「ものづくり研修」になります。企画職とエンジニアが1名ずつタッグを組んで、ハイパーカジュアルゲームを作ってください!って突然言い渡される研修で。
その時の資料がこちらです。
ーえー、ちょっと待ってください。だって、みなさんゲームつくるの、初めての人多いですよね。そんな突然、研修でヨーイドン!で始まっちゃうんですか?
そうなんです。しかも、2週間で。1チーム予算10万円ずつ渡されて、試しに広告打っても素材を購入しても、何に使ってもいい。そして、リリース後は全てのゲームに広告まわして、基準をクリアしたら本当にリリースもするっていう研修なんですよ。
ー予算渡されて、開発して、プロモーションまわす、本番のゲーム開発をひと回しするってことなんですね。でも、みなさんはコロナ禍での入社ですよね。ということは、研修もずっとオンラインでお互いリアルでほぼ会ったことない関係ですよね。タッグはどうやって決まるんですか?
誰と誰がタッグを組むかは、みなさんのスキルと趣味趣向を考えて運営側で決めたんです。技術力があるとか、コミュニケーション能力が高いとか、趣味嗜好性とかを含めて、誰と誰がタッグを組むとよさそうかを考えたんです。
ーゲームをつくるのは初めてだったわけですよね?不安はなかったんですか?
エンジニアはものづくり研修の前に、ハイパーカジュアルを1つ開発してみる研修は受けていたんです。
私はわからなすぎて、不安すらなかったです(笑)
実は、私はゲームを開発したくてアカツキに入社したわけではなかったんです。クリエイターの手段を増やす仕事がしたくてアカツキに入ったので、ゲーム作って出してねと言われても、正直ゲームをつくる人の脳の使い方とかよくわからなくて。
ー教えてくれる人の体制は、どうなってたんですか?
エンジニア、企画職ともに先輩にレビューをお願いできるルールでした。サポートはあるけど、2週間の時間の使い方、10万円の使い方などは全て自分たちで決めて進んでいくんです。隣のチームとは情報交換はありです。エンジニア同士、企画職同士だけでなく、企画職は別チームのエンジニアと会話したりもしながら、9組の全チームがゲームをリリースするのがゴールでした。
すぱっ。にゅるっ。気持ちいい五感を探す
ーかほ&あつきチームは、どういったねらいで組まれたのですか?
かほはロジカルというよりは感性の人。柔軟性が高くて、ガッツのあるエンジニアと組まないとチームが破綻するだろうなと思ったんです(笑)。それであつきが選ばれた感じです。
知らなかった(笑)
僕も知らなかったんですけど、僕らのチームにはアンパイを求めてないんだろうなっていうのは感じてました(笑)
そうだね。だから、2人で企画を立てていくときにもなるべくゲームから離れて考えようってことになりました。
ー「Mirror cakes」のアイデアは、どうやって生まれたんですか?そもそもハイパーカジュアルの企画って、題材とかどうやって探し始めるんですか?
ハイパーカジュアルゲームの必要な要点を自分で洗い出してみたんです。シンプルで世界中の誰でもわかる動きってなんだろうと考える中で、「気持ちいい」っていう感覚にたどりついたんです。
それで、「気持ちいい」っていう感覚と操作を書き出してみました。その時の資料がこれです。
ー「すぱっ」とか「にゅるっ」とか、かなり感覚的なんですね。
五感に沿って、気持ちいいいものをひたすら出して行ったんです。聴覚、視覚、触覚など。たとえば「んーすぽっ」っていう、引っこ抜く感触が超気持ちいいなっていう発見もありました。
あつきにそれを伝えると「全部ユニティでつくったげる」ってイケメンな返事が返ってきて。
かほちゃんがゲームに詳しくなかったので、その子から出る発想を僕も見てみたいなっていうのはあって。なので、できるだけゲームとしてこれはダメとか、技術的にできないとか教えたくないなっていうのがあって。
それに、まだ明確な答えや世に出ているものがないものを作っていくのは、研究開発みたいで面白くて好きなんです。
僕の中では、かほのこの感覚的なアイデア出し、ハイパーカジュアルゲームをつくるには最高説なんですよ。そして、それを受け止めるあつきも、僕のねらい通りです(笑)
でも、僕らのチーム、ミラーケーキに絞りこむまでは、他のチームよりかなり遅れをとっていたんです。
企画決めるまで、3〜4日はかけちゃったんです。でも、僕はここが1番大事だなと思っていたので。時間をかけられるだけかけようと思ってました。
私がめちゃくちゃ発散タイプなんですよ。
わーっと出したアイデアを、あつきが絞ってくれて。その後、研修でレビューをしてくれていた先輩のエンジニアが絞るのを手伝ってくれました。
選ぶ基準は、技術的に可能であること。見た目ですぐわかるもの。そして、僕自身が気持ちいいと思えるかどうか、です。僕自身が時間をかけ開発するので、僕も好きだと思えるようなのを作りたかったから。
かほちゃんから出たアイデアを僕のフィルターで選ぶ段階で、軽くモックは作り始めてはいたんですね。それを先輩エンジニアに見せていて。ミラーケーキの広がるみたいなところはすごく目新しかったらしくて、結構強く推してくれました。
ケーキの表面に液体が流れているかのように見せる技術
ーミラーケーキの表面に、液体がたらたらーっと流れて広がるの、あれはどうやって実現したんですか?
スポンジケーキの上にコーティングする部分の実装は、ぱっと見かかっているものが立体的に見えますが、ケーキの柄をユーザの入力に合わせて変えているだけなんです。
モバイルで三次元流体表現を行うことはスペック上難しいので、二次元で液体挙動の近似計算を行って、影で立体感をつけて見せてます。液体の挙動の計算は、UnityのShaderで行われています。
たとえば、広がっていくところは、注いだ点からじわーっと広がる挙動を表現したいわけなんですが、これは、二次元上で液量を定義して、“ぼかし”(平滑化)を行うことで液体が多いところから少ないところへ広がる動きを計算しています。
毎フレームShader上で周囲のピクセルの液量の平均をそのピクセルの次の値とすることで、注いだ点から周囲に広がり,付近の液量と影響しあう挙動になるんです。
ーこういう技術は、どうやって発見したんですか?
実際のミラーケーキが作られる映像をみて、挙動を数学的に近似できないか観察を繰り返しました。僕の大学の頃の専攻が画像処理だったんですが、その技術を応用するのがまず頭に浮かんで、結構うまくいったという感じです。
私が「模様をもっと広げてー、もっと厚くしてー、つやっとさせてー」という感じに、感覚的に要求を伝えると、実装してくれました。
ミラーケーキのこのじわーっと広がる動きの気持ち良さと見た目。これを見て、先輩は「いける」って推してくれてたんじゃないかと思います。
※ケーキに溶けたチョコをかけてコーティングする作業(グラサージュ)の実装については、Akatsuki Hackers Labで詳しく紹介しています。
モバイルで動くShaderでの流体表現(池田 篤紀)
やさしくないKPI。なのに一回でCPC38円切ってきた!
ーミラーケーキは研修期間が終わる前に、予算の10万円の一部を使って広告テストを行ったんですよね。
はい、CPC40円をクリアするのがミッションなんですが、「Mirror cakes」が一回でクリアしちゃったんです。
たしか、38円でした。
CPC40円はハイパーカジュアルの業界では普通のKPIで、研修だからといってやさしく設定した水準ではないです。それを早々に突破したわけですから、すげーって感じでした。
ーぶっちゃけ、けいとさん「Mirror cakes」はいくと思ってました?
この二人が「Mirror cakes」の企画をやるって見せてもらった時、これはいくだろうなというのは、僕と先輩エンジニアで盛り上がっていたんですよ。
CPC38円だしてから、急に期待値が上がっていくのは感じました(笑)。BuddyのチームからSlackが入るようになったりして。
ーカジュアルゲームを専門にやっているけいとさんから見たら、研修っていっても練習じゃなくて本番行くぞみたいな感じだったということですか?
ものづくり研修っていっても、いい作品ができたらBuddyとして世に出したいと思ってはじめていたんです。ものづくり研修の最初に、ハイパーカジュアルゲームを企画する上で大事なことは伝えていたんですよ。ハイパーカジュアルゲームの収益構造、シンプルで誰でもプレイできるゲームはどういうものなのか。
ものづくり研修の9組中、2組がCPC40円を突破したので、いい確率で出来上がってきてるんですよ。「Mirror cakes」ともう一つのゲームも今リリース目指して調整しているところです。
ずばり「Mirror cakes」の勝因はどこに?
ーハイパーカジュアルゲームと新入社員研修の相性はよかったってことですか?
ハイパーカジュアルって、とにかく人を選ばず気持ち良いとか面白いって思ってもらう必要があるんですよね。いろいろなゲームをやってきて、リスクだリターンだと頭使って考えてしまって、ゲームっぽくすればするほどプレイする人を選んじゃうと思うんですよ。
ハイパーカジュアルは、ゲームを知らない子どもでもわかるようなシンプルさが求められていて、加えて、かわいいとか、きれいとか、映えるとか、そういう感覚を盛り込めるとマスに受けやすい企画になるんです。
そういう意味で、ゲームを知りすぎていないフレッシュなアイディアが今回は当たったということかと思ってます。
ーハイパーカジュアルのヒットの秘訣はいろいろあるんだと思いますが、今回の「Mirror cakes」を例にとると、どのあたりがヒットの秘訣なんでしょうか?
ハイパーカジュアルは見た目の影響度がとても高いため、最初の企画段階でほぼ決まると思うんです。ミラーケーキというモチーフの発見で既に結構勝っていたところに、たらーっと流れていく動きを実現できる技術があって、世の中の人が気持ち良いと思えるレベルに昇華できたところが勝因だと思ってます。
ゲームを開発して終わりじゃもったいない!リリースして広告打ってみよう
ーBuddyでは今後も、ハイパーカジュアルゲームと研修を組み合わせて進めていくのですか?
毎年、内容はアップデートしながら研修は続けていきたいですね。これをより高い精度にして、研修を一般解放して、より多くの人に門を叩いてもらいたいなと思っています。もっと多くの人にハイパーカジュアルゲームにチャレンジしてほしいです。
そのはじめとして、Buddyでインターンを募集しようと思ってます。
「Mirror cakes」のように研修でまずは小さく作ってもらい、テストでKPI突破したらBuddyにジョインしてもらい、本リリースを一緒にやっていくイメージです。
僕は「自分でゲームつくってみたよ」で終わっちゃっている人たちが多すぎるのが、もったいないと思っているんです。でも、国内向けにカジュアルゲーム創っても難しい。どうぜゲームつくってみるならハイパーカジュアルゲームにして、グローバルに出して回してみるところまでやってみるといいんじゃないかなと。
ーBuddyではそこのサポートができるということなんですよね?
はい、そこは僕らがサポートできます。
こういうのもなんですが、ぼく、人のモチベーションを高めてひっぱっていくのうまいと思うんですよね(笑)。塾講師やってた時も、人気ゆえに指名制になったりしました(笑)
ぼくは自分が通ってきた道ならある程度人に教えられると思っているので、アカツキでの新卒研修も基本的には自分が学んできたことを少しでも還元できないかと考え設計しております。
ーかほさん、あつきさんは今後ハイパーカジュアルゲームに挑戦する人に、メッセージはありますか?
僕が「Mirror cakes」を作ってみて思ったのは、ゲームづくりってそのゲームづくり自体がすごいゲームっぽいなってことなんです。データを見てユーザーがこんなことを感じているんじゃないかなと思って、予想して仮説を立てて、次の施策を打っていく戦略性がおもしろいです。
それに、ゼロからゲームの世界観が出来上がっていくような、DIY的なところがゲームっぽい。ゲームづくりがゲームをやっているようで楽しかったので、来年の新入社員研修でもぜひチャレンジしてほしいですね。
企画職の研修の中で「自分のフィルターをちゃんとつくる」ことの重要性を先輩が話してくれたんです。フィルターのメッシュを作っていくには、自分の経験したこととか体験したことでしか作られないものだと思うんです。でも、仮にメッシュが作れたとしても、フィルターを通過したものが本当に世の中に通用するかどうかはわからないじゃないですか。
小さいスケールなら自分でチャレンジできるので、全世界に向けて試すチャンス。それがハイパーカジュアルゲームなんじゃないかと思っています。自分の感覚が世の中に通用するのかどうか、精度高く確認することができる土台のようなもの。ぜひ、試してみてほしいですね。
頭でわかっても体を動かせないとダメなように、やってみてわかることが多いのがゲームなんだと思うんです。ハイパーカジュアルゲームに興味のある人は、ぜひ、気軽にBuddyまでご連絡ください。(AkatsukiBuddyお問い合わせフォームはこちら)
ーかほさん、あつきさん、けいとさん。本日はありがとうございました!