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アカツキCFOとマネーフォワードCFOが考える最高財務責任者の役割

2021.07.26

2021年5月28日、株式会社マネーフォワード主催のオンラインセミナー「上場企業CFOの【HARD THINGS】~投資家コミュニケーションのツボ~」にアカツキCFO米島慶一が登壇しました。

本セミナーは上場を目指す企業の経理財務担当者、事業会社のCFOを目指す方向けに行われ、株式会社マネーフォワード 取締役執行役員CFO 金坂 直哉さん、株式会社アカツキ CFO 米島慶一が上場企業のCFOとして経験談や投資家とのコミュニケーションの取り方について語りました。 

経理・財務関連の職種の方にとって役立つ情報だけではなく、ビジネスパーソンなら知っておきたい「赤字上場」「投資家との接点」などについてわかりやすい説明があったほか、アカツキ米島がなぜアナリストからCFOへと異色の転身を遂げたのか? など盛り沢山の内容だったこのセミナー。解説をまじえて一部レポートいたします。

米島 慶一株式会社アカツキ CFO

1994年慶應義塾大学理工学部卒業後、1996年に同校大学院理工研究科を修了。国際デジタル通信株式会社に入社後、インターネット・サービスのプロダクトマネージャーとしてサービス企画を担当。 2000年に金融業界に転身し、通信・インターネット業界を担当するリサーチアナリストとして、企業業績および株価の分析業務を行う。JPモルガン証券、リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ証券、クレディ・スイス証券など複数の外資系証券会社で勤務した。 2020年3月にアカツキへジョイン。CFOとして財務・IRを統括する。

金坂 直哉株式会社マネーフォワード 取締役執行役員CFO/マネーフォワードシンカ株式会社 代表取締役/マネーフォワードベンチャーパートナーズ株式会社 代表パートナー

2007年、東京大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス証券株式会社の東京オフィス、サンフランシスコオフィスにて、テクノロジー・金融業界を中心にクロスボーダーM&Aや資金調達のアドバイザリー業務、投資先企業の価値向上業務に従事。 2014年よりマネーフォワード入社、2017年に取締役に就任。2019年10月には、マネーフォワードシンカ株式会社代表取締役に就任。2020年5月に設立したマネーフォワードベンチャーパートナーズ株式会社代表パートナーも務める。

【解説】イベントのメインゲストは2人のCFO。その業務とは 

株式公開が原則となる現代の企業経営において、CFO(最高財務責任者)は縁の下の力持ちといえるポジションです。株主とのコミュニケーションや資金調達をはじめ、事業の推進力となる経営資源の現状を把握して、CEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)と共に戦略立案にも関わります。

なかでも重要なのが、本セミナーのサブタイトルにも入っている「コミュニケーション」。なぜ、CFOには投資家とのコミュニケーションが求められるのでしょうか? それは、投資家が企業に事業資金を提供してくれる存在だからです。

投資家は株式を通じて企業に投資を行い事業資金を供給する役割を担っています。ゆえに投資家は、顧客や取引先と同じくらい誠実なコミュニケーションが必要な存在です。そのため、CFOは企業の財務状況をまとめ、IR(インベスター・リレーションズ:投資活動に必要な情報を提供していく活動)を通して今後の見通しを伝えています。

このCFOのコミュニケーション業務について詳しく語られたのが、セミナーでの「赤字上場」のトピックでした。次の章から振り返っていきましょう。

2017年のマネーフォワードの赤字上場。金坂さんが語るその裏側

セミナースライドより

登壇者の金坂さんがCFOを務める株式会社マネーフォワード(以下、マネーフォワード)は、2017年夏に東証マザーズに上場しています。しかし、国内ベンチャー企業のなかでは事例が少ない、「赤字状態での上場」でした。

ベンチャー企業は社会的信用の獲得や、株式公開によって資金を調達するために上場を目指します。そのため、株式上場は黒字状態で行われることがほとんどです。一般的には、企業の業績が良いほど株を買う投資家が増え、需要が増加すれば、株価が上がって上場時の資金調達額を増やしやすいと言われています。

しかしながら、マネーフォワードは赤字状態で上場を選びました。その背景にあったのは「社会的信用の獲得」を優先したこと。

金坂

弊社は、企業のバックオフィスを効率化するSaaSプロダクトを提供しています。プロダクトの性質上、全国の金融機関や会計事務所とデータ連携することも多く、ユーザーを増やすために社会的信用の獲得が必要不可欠でした

また、アドバイザーから「企業経営のなかで、上場は通過点でしかないので、できるタイミングでしよう」と後押しをもらったこと。ヒアリングを通して、赤字上場をポジティブに捉える投資家の存在を知れたこと。北米では赤字上場を行った後に成長している企業が多いことなどを踏まえ、赤字上場に踏み切りました。

当時、マネーフォワードの決算説明会に足を運んでいた米島は、投資家とのコミュニケーションの重要性を再確認したそうです。

米島

印象に残ったのは決算説明会で聞いたロードマップです。金坂さんは『現在は赤字ですが、コストの一部を顧客獲得に使っていて、今後はこんなプロセスで黒字になります』と今後の戦略を丁寧に説明していました。この説明があったからこそ、損益分岐のタイミングや黒字化がイメージしやすくなり、投資家が納得感を持って株式を購入できたのでは

マネーフォワードは上場後も着実に成長を続け、2020年冬には四半期ベースで黒字転換を果たしました。たとえ財務状況が赤字でも、コミュニケーションの方法を工夫すれば投資家とポジティブな関係を構築できます。その施策の中心となるのがCFOなのです。

【解説】投資家のさまざまな属性と、コミュニケーションの方針

前章では投資家とのコミュニケーションについて掘り下げましたが、ひとことに「投資家」と言っても属性はさまざまです。個人の資産を運用する「個人投資家」だけでなく、保険会社・銀行・基金・共済・政府系金融機関など、大量の資金を使って株式や債券の運用を行う「機関投資家」もいます。彼らが求めるリターンは千差万別なので、適正なコミュニケーションが求められます。

さらに現代の投資家は、自国の企業にこだわらず、グローバルな視点で投資先を探しています。このような背景から、上場企業には海外の投資家を意識した施策が求められるようになりました。イベントに登壇したマネーフォワードとアカツキは、国内外の投資家とどのように向き合っているのでしょうか。セミナーのトピック「投資家との接点」について見てみましょう。

マネーフォワード・アカツキ両社の投資家へのスタンスとは

投資家へのスタンスとして両社ともに共通していたのは、「個人・機関・国内外で属性を区切らず、IRを通して丁寧なコミュニケーションを心がけること」。そのため、コーポレートサイトや決算資料は英語にも対応していますし、海外投資家とのミーティングも行っているそうです。

金坂

投資家はバラエティに富んでいますし、海外投資家を候補に入れれば資金調達のバリューエーションが広がる。そのため、自社のビジネスモデルやポテンシャルを評価してくれる投資家をグローバルな視点で探しています

とはいえ、ビジネスモデルによって投資家の比率は変わってくるそうです。

米島

アカツキのビジネスモデルは長期投資家の視点が必要と考えています。なぜなら、ゲームタイトルの開発には2〜3年がかかり、ゲームのアップデートやイベントと連動して株価も上下するからです。アカツキはどちらかというと四半期という短期的な目線では季節的な変動があるフロー型の事業モデルとして捉えられる傾向があります。ただし、ゲーム事業やIP事業の立ち上がりには開発に時間がかかるものが多く、長期目線の投資家とのコミュニケーションが大事だと考えています。

と、米島はビジネスモデルに沿ったコミュニケーションスタンスを紹介しました。

一方のマネーフォワードはSaaSプロダクト※1を提供しています。SaaS市場は近年急成長を遂げている市場で、同社もまた右肩上がりに成長している企業です。決算情報は目まぐるしく変わり、経営戦略も頻繁に更新されます。ゆえに決算説明会は四半期に一度の短いタイムスパンで行い、投資家に現状を伝え続けてきました。

このように、ビジネスモデルによってIRの方針は異なります。どの層に向け、どのような情報を提供し、どのようにコミュニケーションしていくのか。その方針を決めるのもまたCFOの役割です。

※1 SaaSプロダクト:「Soft as a Service」の略。ネットワーク経由で利用できるソフトウェアサービスのこと

なぜ米島はアカツキに? ベテラン証券アナリストがCFOを志した理由

ここまでセミナーの流れに沿って、マネーフォワード、アカツキのCFOが投資家とのコミュニケーションについてどう考えているかを見てきました。両社の事業によるコミュニケーションの違いや、お互いの方針を外から見た意見などを通して、CFOの役割や考え方について理解が深まったのではないでしょうか。

セミナーの最後に設けられたのが、事前に参加者から集められた質問への回答コーナー。その中から、「アカツキ米島さんは、なぜ前職の証券アナリストからCFOになったのですか?」への回答を紹介します。

アカツキのCFOに就任する前の米島は、キャリア歴20年以上のベテラン証券アナリスト。そのままアナリストとして活動しても良かったはずですが、なぜ米島はアカツキに入社することを選んだのでしょうか。また、アナリストとCFOにはどのような違いが?

セミナースライドより

米島は就任の経緯について語りました。

米島

アナリストという仕事は、情報発信をしてまだ世の中に浸透していない価値を自分の責任で説明できる場を与えてもらえる仕事。今でも大好きで、一生アナリストでもいいかなと思っていました。しかし50代を目前に、“違う世界を見ていない自分は偏っていないだろうか”と不安を感じてしまった。ちょうどタイミング良くオファーをいただき、“今ここでやらなければ死ぬ間際に後悔しそうだ”と感じてアカツキに飛び込みました

米島

アナリストとCFOは非常に似て非なる仕事で、財務分析や株価、お金の使い方を見るなどの業務は同じです。しかし、アナリストは一度に多くの会社をカバーし、ひとつひとつの会社に適性株価を与える必要があります。一方でCFOはひとつの会社にしっかりとコミットし、株価よりも先に“その会社をどうするか”というところから考える必要がある。つまりは自分の会社を成長させるために、他社を分析する。アナリストとCFOはそういった部分の見方に違いがあります

アカツキのカルチャーも、米島にとって興味深いようです。

米島

アカツキはゲーム開発で成長してきた企業ですが、近年では事業領域を広げ、幅広くIPのプロデュースを手掛けています。そのため社員にはクリエイターが多く、証券業界に長くいた私はたくさんの刺激をもらえている。自社の強みとなる人的アセットやノウハウをIRでどのように表現するか、苦労しながら楽しんでいます

米島

キャッシュも豊富で250億円以上を確保していることに安定感を感じる一方で、攻めて行かないと将来は厳しいと感じています。世界的にもIPの重要性は増しているので、今後版権の確保や、企業・事業買収などを行う場合には、更なる調達も必要になることも想定されます。ここは腕の見せ所なので、CFOとして大きなやりがいを感じています。

現在アカツキは第二創業期を迎え、ゲームの開発だけでなくIPのプロデュースやデジタル化事業にも注力しています。この体制を強化するため、コーポレートを担うメンバーを募集中です。アニメ・エンタメ・ゲーム好きの方はぜひ協力してほしい

アカツキは2020年の経営体制の変更を受け、ゲームを軸にしたエンタメプロデュースカンパニーとして、経営の舵を切りました。さらなる事業の拡大を目指すなかで、財務戦略の側面から活動を下支えしてくれるCFOの存在は大変頼もしいものです。アカツキのコーポレート部門は、これからも事業をバックアップして伴走していきます。

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文:鈴木 雅矩 編集:大島 未琴