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ドットが描き出すカルチャー。渋谷を彩った世界最大級のピクセルアートフェスティバル

2021.10.21

「ピクセルアート」や「ドット絵」はゲームカルチャーの象徴として、世界中で愛される表現手法。近年ではゲーム文脈から派生してアニメーションやファッション分野にも進出しており、NFT(Non-Fungible Token)の普及に伴って芸術作品としても評価を受けはじめています。

このピクセルアートの魅力を広めるために2017年から毎年渋谷で開催されているのが、世界最大級のピクセルアートコンテスト&フェスティバル「Shibuya Pixel Art」。アカツキも2020年度から後援しています。イベント立ち上げから5周年を迎え、節目である今年はイベント名を『Shibuya Pixel Art Reboot』とし、国内外から著名なアーティストが参加しました。

『Shibuya Pixel Art Reboot』ポスター

今回は『Shibuya Pixel Art Reboot』の取り組みのひとつ、9月18日、19日に開催された「渋谷ピクセルアートコンテスト2021」の受賞作品展・表彰式や会場の様子をレポート。最優秀賞を受賞したNelson Wu(@instant_onion)さんのコメントもご紹介します!

作品展、表彰式、ピクセルマルシェと、ピクセルアートざんまいの2日間

9月18日(土)/19日(日)に渋谷キャストで行われた「渋谷ピクセルアートコンテスト2021」作品展・表彰式。今年のコンテスト作品テーマは【シブヤ・花火・乗りもの・虹・空飛ぶ生きもの】のいずれかで、【最優秀賞・優秀賞・adidas特別賞・Limited Pixel Art賞・Analog Pixel Art賞・Pixel GIF Animation賞・Beyond Pixel Art賞・審査賞】の8部門に分けて作品が選ばれました。

審査を行うのは、株式会社スクウェア・エニックスのアートディレクターを務め「ドットの匠」と評される渋谷員子氏や、「チームラボボーダレス」仕掛け人の杉山央氏、ピクセルアーティストとして25年間活躍するKlas Benjaminsson氏など、国内外でピクセルアートに携わる著名人たち。表彰式では事前に「Shibuya Pixel Art Reboot」ウェブサイト上で発表された優秀賞のなかから、最優秀賞や審査員賞に選ばれた作品が発表されます。

 2021年9月18日(土)/19日(日)渋谷キャスト「Shibuya Pixel Art Reboot」看板

渋谷キャスト入り口には大きな看板が

表彰式が行われる19日に渋谷キャストを訪れると、作品展示会場の外ではピクセルアートにまつわるグッズが出品されるピクセルマルシェが行われ、アクリルキーホルダーやシールなどのグッズが販売されていました。週末の渋谷ということもあり、ブースにはたくさんの来場者が足を運び、とても賑やかな雰囲気。いずれもポップなグッズは来場者の注目を集めていました。

ピクセルマルシェブース『NekoBraver』

『NekoBraver』ブース

 ピクセルマルシェブース『服部グラフィクス』

『服部グラフィクス』ブース

最優秀賞受賞者は「渋谷の静寂」を描いたカナダのアーティスト

 

展示会場に移動すると、会場には多数の作品が並んでいます。パネルとして展示される作品だけではなく、ナノブロックで制作された作品は実物展示、サイズの小さな作品はディスプレイ上で動く様子が見られるようになっていました。

会場奥にプロジェクターで映し出されているのが、「渋谷ピクセルアートコンテスト2021」で最優秀賞とKlas賞(審査員賞)を受賞した作品、Nelson Wuさんの『departing』です。

 

GIFアニメーションで描かれているのは夜の渋谷駅。待合室に座る女性の横には小さな魚が二匹、宙を舞っています。いつもは人で賑わう渋谷駅ですが、作品に描かれている風景には待合室の女性のほかに人影が無く、とても静か。異世界を覗き見ているような不思議な感覚に捉われます。

審査員のピクセルアーティストKlas Benjaminsson氏も大絶賛で、「オブジェクトの構成が上手く、ライティングや雰囲気もうまく渋谷を捉えている。浮いている魚たちも素晴らしいタッチで、応募作品のなかでも頭ひとつ突び抜けている」と作品を評しました。

『departing』を制作したNelson Wuさんはカナダ在住で、新型コロナウイルス感染症が流行する前に日本へ旅行に来ていたそうです。ジャパニーズカルチャーがとても好きなNelson Wuさん。ポートフォリオにも回転寿司や街の路地裏、コンビニなど、日本をモチーフにした作品が多数掲載されています。

Nelson Wuさんは授賞の知らせを受けて、ビデオチャットでコメントを述べました。

「最優秀賞を受賞して、今はなんと言ったらいいか分からないほど驚いています。コロナ禍以前に旅行した日本はとても落ち着いた雰囲気でした。『departing⚠️』は、この時に感じた空気感を再現しようと思って制作したものです。Shibuya Pixel Artのコミュニティは以前から大好きで、よくサイトに作品を見に行っていました。今回の受賞をきっかけに、コミュニティの一員として関われることを光栄に思っています」

リモートで授賞式に参加するNelson Wuさん

リモートで授賞式に参加するNelson Wuさん

VOICEでは今回特別に、Nelson Wuさんに作品についてのインタビューを行いました。

受賞作『departing 』は以前日本に旅行された経験がヒントになっているとのことでしたが、旅のなかでも駅のホーム、”出発”をテーマに選ばれた理由を教えて下さい。

Wu  色々な国を旅してきた経験のなかで、列車や駅のような場所は自分にとってとても懐かしい感じがする場所なんです。そういう場所は「リミナル・スペース※1」と呼ばれていて、境界にある場所、地点Aと地点Bの境目になる場所です。そういう所に、特に独りでいるのが好きなんです。もの思いにふけることができますから。

この作品を作り始めたとき、「今年のシブヤピクセルアートコンテストのテーマにいちばん響き合うものは何だろう」と考えました。誰でも、渋谷や日本について自分なりの経験を持っているはずです。数年前に日本を旅したときのことを思い出そうとしていたら、自分が撮った、駅で女の子が座っている写真をたまたま見つけました。それが、その時の自分の気分をぴったり表している写真だったんです。

※1  リミナル・スペース :2010年代後半からインターネットミーム的に広まった概念

―Wuさんのツイッターにはたくさんの作品が投稿されていますが、ピクセルアートを始めたきっかけはなんですか?また、これまでに何作品制作したかお聞かせください。

Wu  ピクセルアートを作り始めたのは見た目がとても綺麗だからです。最初にピクセルアートを知ったのは、人気のゲームを通じてで、その後ピクセルアートの使い方がとてもユニークなアーティストやインディーゲームを知りました。

私は最初、イラストを描くことから始め、それを通じて自分の考えているテーマをピクセルアートでも表現できるようになったのです。ピクセルアートのほうがテーマを上手く伝えられる場合があったので、続けてみたくなりました。

ピクセルアートを作り始めて4年以上になりますが、今までいくつ作ったかは正直なところ分かりません。クライアントに頼まれて作ったものと自分用のものを合わせて、数百点といったところだと思います。 

ピクセルアートという表現の強みや、魅力はどんなところだと思いますか?

Wu  ピクセルアートはゲームから生まれたものなので懐かしさが強くありますし、広い世代の人々に影響を与えてきました。いまでは大きなコミュニティが存在していて、ピクセルアートを変容させ続けています。すでにゲームから独立して、他のアートと同じように扱えるひとつの様式になっています。精密なアートであり、用いるピクセルひとつひとつが本当に大切で、おもしろいのはそこですね。

また、ピクセルアートのコミュニティはとてもフレンドリーで、好きなものを作ることにこれほどの愛着を見せてもらったことは今までありませんでした。みんなそれぞれの道を進んでいますが、お互いの方法から学ぶこともできるのです。

―これからどんな作品を作っていきたいか、展望をお聞かせください。

Wu  これからも、自分のアートブックやピクセルアート映画、ゲームを作っていきたいと思います。今年は『TUESDAY』という短編映画を作ったり、ゲームジャム※2にいくつか参加したりして本当に楽しかったんです。もっとたくさん作って人々に見てもらいたいし、こんなに長い間助けてくれてきた人たちに感謝しています。

ここ数年のあいだ自分のアートの進展を見守るのはとてもおもしろかったですし、これからもっと良いものを作れると思うと待ちきれない気持ちです。

※2 ゲームジャム:ゲームクリエイターが集まり、短時間でゲームを制作するイベント

「ピクセルアートの可能性はもっと広がっていく」

審査員として参加したアカツキHead of Design, Games柴田 陽一

審査員として参加したアカツキHead of Design, Games柴田 陽一

Nelson Wuさんのコメントに続き、授賞式の締めくくりにはアカツキHead of Design, Games柴田 陽一が総評を述べました。

「受賞者の皆さま、このたびはおめでとうございます。Shibuya Pixel Artの応募作品はいずれもレベルが高く、ドット絵がもっている制約の美学や、デジタルなのに温かみを感じる独特の魅力を再認識しました。

私は『ファミコン世代』で、小学・中学・高校と多感な時期をドット絵に触れて育ち、強い思い入れがあります。昨今では世代や性別、国境を超えてさまざまな方々にピクセルアートの魅力が再認識されており、ピクセルアートの愛好者として、とても嬉しく思っています。

近年のゲーム業界では、ピクセルを用いたフルリマスター版のような表現が増えてきました。さらにデジタルデバイスの進化に伴い、身につけるデジタルアートやNFTのムーブメントも普及している。これから先、ピクセルアートの可能性はもっともっと広がっていくでしょう。

改めて、すばらしいコンテストを開催してくださった運営の方々、そして受賞者の皆さまをはじめとする参加者の方々にお礼を申し上げたい。来年のコンテストも、さらなる盛り上がりを期待しています!」

Nelson Wuさんには最優秀賞としてトロフィーとアカツキから賞金30万円、Wacom社から液晶ペンタブレット、そしてKlas賞としてnicepixel発行の画集『The Masters of Pixel Art』が贈られました。さらに作品は、2021年9月に渋谷QFRONTの巨大サイネージにて放映され、『Shibuya Pixel Art 2021 Collection Book』に掲載されます。

渋谷QFRONTで放映されたNelson Wuさんの作品

渋谷QFRONTで放映されたNelson Wuさんの作品

今年も多彩な作品の応募があり、渋谷を彩った「Shibuya Pixel Art」。これからもゲームカルチャーの一角を担う芸術祭として、国内外にピクセルアートの魅力を発信してくれるでしょう。アカツキは、これからもピクセルアートカルチャーを応援していきます。

シブヤピクセルアートコンテスト2021受賞作品はこちら
https://pixel-art.jp/contest/

シブヤピクセルアート公式サイト
https://pixel-art.jp/

文:鈴木 雅矩 編集/写真:大島 未琴