日本初の女性ホラープロデューサー、夜住アンナが創る美しいホラーの世界
2018.09.14
あなたは “お化け屋敷” という言葉から、どのようなイメージが思い浮かびますか?
「得体の知れないなにかがうごめく、暗い部屋の中を徘徊させられる」
「突然、死角から幽霊が飛び出してくる」
「狭い通路を血相を変えて逃げる」
暗く狭い空間で極限状態に置かれ、恐怖を体感させられる場所。そんなイメージを抱く人も多いのではないでしょうか。
しかし、そうした従来の お化け屋敷の概念を良い意味で裏切る “美しいお化け屋敷” が、いま若い女性を中心に人気を集めています。
それが、横浜中華街アートリックミュージアムで8月に行われた、アカツキライブエンターテインメントが主催する期間限定イベント「THE WITCH(ザ・ウィッチ)」です。
このイベントを手がけたのが、ホラープロデューサー・夜住アンナ。彼女の仕掛けた「THE WITCH」とはどのような企画だったのか。また、ホラープロデューサーという仕事の魅力とはなにか、実際に現場に潜入し、お話しを聞きました。
体感できるダークファンタジー「THE WITCH」に潜入!
「THE WITCH」は、とある謎の絵画をテーマとした、女性の恐ろしさが引き立つストーリー仕立ての展示。横浜中華街にあるアートリックミュージアムのトリックアートに着想を得て、そこへホラー演出を掛け合わせた、まるで不思議な絵画の世界をさまよっている感覚を味わえるとのことで、入る前から期待が高まります。
ここでは、階段を下っていきながら展示を鑑賞する「ダウンステア方式」という、日本では珍しい方式での体験ルートになっていて、下っていくほどに、よりホラーな世界に深く潜り込んでいくような感覚に。
また、香りにも趣向が凝らされていることに気づきます。催淫効果があるといわれる「イランイラン」や雨の日のような湿った香りのする「パチュリ」といったアロマの香りが館内に満ち、恐ろしさと妖しさが混交したような雰囲気が感じられるのも特徴的。耳には、子守唄をモチーフにしたという幻想的なBGMや女性たちの意味深なセリフも各所から入ってくる…。ここでは、視覚だけなく嗅覚や聴覚など五感も刺激されるのです。
さらに、館内には複数の “何か” が来場者たちを待ち構え、別の世界へと誘い込むようにささやきかけてきたり、ガラス越しにのぞこうとしてきたりと、さまざまな方法で参加者への接触を仕掛けてきます。距離をとって無視するか、近づいてコミュニケーションをとるのか、選択は参加者に委ねられているので、それがさらに恐怖心を増幅していきます。
そんな「THE WITCH」の評判を聞き、恐怖を体感してみたいと開催日には長蛇の列ができました。その多くは女性や若いカップル。実はあまりホラーが得意でない、という方の来場も多かったとのこと。実際、「THE WITCH」に潜入してみると、怖がりながらも一つひとつの展示の前で立ち止まり、うっとりとした表情を浮かべ、「恐怖を楽しむ」女性の姿も目立ちました。
ホラーに馴染みのない層から好評を得た一方で、目の肥えたホラーマニアの方々からも好評価だったそう。「本来は、早く出たくなるのがお化け屋敷なので、ゆっくり見て回れるホラーというコンセプトが新鮮だった」という声も多かったそうです。
単純な「怖さ」だけでなく、ホラーの美しく怪しげな世界を高いアート性で表現したホラーイベント、それが「THE WITCH」です。
日本初の女性ホラープロデューサー・夜住アンナとは?
「THE WITCH」プロジェクトの代表である夜住アンナは、日本初となる女性ホラープロデューサーです。
夜住 ホラープロデューサーという仕事は、自分でホラーの企画を作り、提供できる場所の手配や人員確保、予算調達、ビジュアル作成まで、現場を幅広く監督するものです。もともと私は趣味の延長でお化け屋敷や人狼大会などを開催していたのですが、その経験をもとに昨年からホラープロデューサーとしての活動を本格的に始めました。
ーー幼少期からホラーに親しんでいたという夜住は、日常のあらゆるものがホラーに見えるのだとか。
夜住 たとえば、公園を歩いているときに『ここに真っ白な女性が一人で立っていたら…』と考えたり、楽器を持った銅像を見かけたときに『この銅像が勝手に動き出したら…』と妄想ばかりしていました。私のそうした想像が新しいホラーのアイデアを生み出す源泉となっているように思います。
そんな彼女は昨年「ギブミーホラー(ギミホラ)」というホラープロジェクト集団を結成。メンバーは女性8名で、夜住の企画を裏方からサポートしています。女性チームで感覚的かつ緊密な連携をとりながら作り上げたことが、「THE WITCH」が女性の心を掴んだ成功要因でもあったのです。
ホラーの概念を超える挑戦を
夜住アンナがミュージアムでホラーを行ったのは今回が初めて。開催にこぎつけるまでにはさまざまな壁が立ちはだかったといいます。
夜住 苦労した点は、怖さのレベル感です。企業と提携する上で、仕掛けや表現には一定の制限が出てきます。その一方で、ホラー好きの自分たちの思いのままに形にしようとすると、どうしても「より怖いもの」を求めてしまいがちになり、ミスマッチが生じます。企画の趣旨に合わせながら着地点を探らなければ実現できない。「THE WITCH」は、そんな中で怖さと美しさとをいかにバランスよく演出するかに最も力を注ぎましたね。
ーーマネタイズするにあたり、来場者の満足度をどのように上げるのかも課題のひとつだったそうですね。
夜住 ホラーという表現をビジネスに変える難しさの1つには、来場者の満足度を測りにくい点にあると思っています。人それぞれで怖さの感じ方は全然違いますので、自分たちの提供したものを価値として受け止めていただけないかもしれないということが課題でした。
女性の来場者を増やそうと思うと、ホラーならではの嫌悪感を押し付けるような表現は出しにくくなります。だからこそ、今回は匂いや音、来場者と演者の間にコミュニケーションを創り出すなど、ホラーな世界観を五感で楽しめる仕組みを充実させ、体感価値を受け取っていただけるようにしました。
ーー日本のお化け屋敷の一般的なイメージである「暗く狭い空間」に疑問を持っていたということですが、今回の展示で既存の枠組みを超えることにも挑戦したそうですね。
夜住 これまでの日本のお化け屋敷は男性的なものが多かったと思っています。ただただ恐怖をあおり立てるような仕組みだけでは、来場者も駆け足で逃げてしまうので、せっかくこだわった展示物が見逃されてしまいます。一生懸命作ったのにもったいないですね。もっとゆっくりと鑑賞して、想像を膨らませながら恐怖を感じていただける表現や手法で新たなホラーを生み出してたいと考えています。
ホラーは非日常の最上級エンターテイメント
夜住とってのホラーとは、「最上級のエンターテイメント」。
夜住 日常では喜怒哀楽を感じられる多くの体験に出会えますが、恐怖という感情は、差し迫った状況にならない限り、なかなか得られません。時折、怖い思いをして、反動で「生きていてよかった」という実感を得たい、そんな隠された欲望が人にはあると思います。そんな欲望をこっそり刺激しつつ、ホラーをアートやエンタメのかたちに昇華させることで感動が生まれます。
ーー先ほどのお話でも、さまざまなホラーのあり方を探りながら、世界に向けても発信していきたいと、とても意欲的ですね。
夜住 まだやったことはないのですが、美しい和のホラーにも挑戦してみたいですね。世界進出する際には、アメリカンホラーVSジャパニーズホラーの対決なんて企画があっても面白そうです(笑)
ホラーを掛け算したエンタメビジネスを世界に
「ミュージアム×ホラー」という掛け合わせで、多くの人を魅了した「THE WITCH」。
今後も「化粧品×ホラー」「食×ホラー」など、意外性のある掛け合わせのエンターテイメントでホラービジネスを成長させたいと夜住は語る。
夜住 サーカスとホラーとを掛け合わせたショーもやってみたいですね。それから、イルミネーションとホラーの融合という演出も面白そうだと思っています。さまざまなジャンルのエンタメと掛け合わせていくことで、きっとホラーを食わず嫌いしている人たちにも広めていけるはず。私にとってホラーを作ることは、テーマパークのアトラクションを作るのと同じ感覚なんだと思います。非日常のホラー体験が、多くの人をハッピーにする。そう信じています。
10月27日には、1日限定で池袋でハロウィンディナーショーが行われるとのこと。ホラープロデューサー夜住アンナが仕掛ける、ホラーエンタメの世界に今後も注目です。
イベント情報
美しく恐ろしい秘密のハロウィーンパーティー「Halloween Dinner Show BATHROOM」
日時:2018年10月27日(土)
場所:BATHROOM
住所:東京都豊島区池袋2丁目64−11 平和ビル
アカツキライブエンターテインメント ギブミーホラー
ギブミーホラー公式サイト:www.gimihora.com
問い合わせ:givemehorror@ale.tokyo
文:堀田 隆大 映像:大倉 英揮 構成:鶴岡 優子
ホラープロデューサー 夜住アンナアカツキライブエンターテインメント
1994年生まれ。幼い頃からホラーの世界に魅力を感じ、全国でお化け屋敷・ホラーイベントの制作・運営を経験。2017年8月サバゲ―フィールド×ホラーイベント「サマー・キラー」/ 2018年1月「ホラー人狼in渋谷」/ 2018年6月 DVD「心霊スパイラル001」ホラー写真ジャケット起用 / 2018年8月「THE WITCH(ザ・ウィッチ)」ほか。メディア紹介事例はテレビ神奈川 「猫のひたいほどワイド」/ TOKYO FM「ホンダスマイルミッション」 / FM ヨコハマ「Baile Yokohama」