佐渡島さん&塩田さんに聞いた「就活でやった方がいい意外な努力」
2021.02.08
「物語の力で、一人一人の世界を変える」「物語の力に宿っている、世の中を変える力を顕在化する」。これは『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当し、その後、独立起業したコルク代表の佐渡島庸平さんの言葉です。
まだ見ぬ物語と体験をつくるエンタメの仕事に興味がある大学生にとって、佐渡島さんの話はきっとたくさんのヒントがあるはず…。
一方的に話す会社説明会ではなく、大学生の興味と発見がフル回転してしまうような時間にしたい。そんな思いで、佐渡島さんとアカツキ創業者塩田さんに、就活とキャリアについての質問をぶつける「ACE」というイベントを実施しました。
「好きなことを続ける人」が強い時代が来た
2020年は激動の年で、エンターテインメント業界でもすごく特殊な作品が生まれた年だったと思っています。今までとは違った作品の生まれ方だったり、『鬼滅の刃』を始め、大規模なヒットを飛ばしている作品も多かったです。コロナ禍ということもあり、変化が激しかった時代だと思います。
社会もエンタメも大変化を遂げているこの時代で、20代はどう会社を選べばいいのか?どんなキャリアを歩めばいいのか?
エンタメ業界の大先輩である佐渡島さん、塩田さんに質問をぶつけていきます!
まず、最初の質問です!
お二人が20代の頃と比較して、今はどのような環境の違いがあると捉えていますか?コロナを踏まえて、どんな風に見ているのかをおしえてください。
塩田さんが『ハートドリブン』っていう本を出しているじゃないですか。今の僕の生活、他の人から見ると、好き勝手やって、ハートドリブンかなって思っています。打ち合わせは、基本歩きながらzoomでやっているんですよ。だいたい毎日20キロぐらい歩いていて。
最近は、演劇も始めて。ストーリーを作るときにキャラクターの感情、演出についての理解をもっと深めたいと思い、知り合いが書いた脚本に出ることに。
なぜ、そういう風にしているかっていうと『ドラゴン桜』って作品をやっている際に、僕の時代って、学歴がある方が社会でキャリアを積みやすくて。その学歴って我慢して数年間努力できる証拠だと思って、受験勉強は我慢しないと結構できないから。
だけど、YouTubeとか、僕がやっているハートドリブンな感じって好きなことを継続してやる。今、ほとんどの人が好きなことだったら、いくらだってできるって思っても、意外と2、3年間続けることってできなくて、好きなことを続ける人が強い時代が来たなと、捉えていますね。
この時代の変化も、無意識に捉えていたと思うんですよね。コロナが来る前に社長の退任を決めたけど、コロナが来た時には、やっぱりなって感覚もあり、自分の中で掴んでいる感覚もあって。
占星術的に、「風の時代」「土の時代」って言葉あるじゃないですか。「風の時代」はもっと自由で軽やかで意識で繋がる時代で、「土の時代」は権力などを培っていく時代だったっていう。それが2020年の末だったみたいな。
こういう時代になるよねって、いろんな人が言うじゃん。その舞台で自分をどう輝かせるかっていう順番じゃなくて。自分が輝きたい舞台、自分が演じたい舞台、自分が表現したいものがあれば、そこに行けばいいっていう軽やかさで。これからどうなるかって、あんまり予測しない方が面白いんじゃないかな。
塩田さんって1社目がDeNA?
1社目がDeNAです。
僕らの時って、会社に入って育ててもらうって感じがあったじゃないですか。今、就活している学生もどの会社で育ててもらうと一番いいんだろう?と考えるじゃないですか。
それよりも自分はこういう能力があって、就職というより会社もプロジェクト参加ぐらいのつもりで、自分の楽しいことが終わったら、また違うプロジェクトに参加してもいいし、って感じで。1個目のプロジェクトを選ぶぐらいの気持ちになっているなって思いますね。
それはものすごくいいマインドセットですね。
でも、若者の視点からいくと、佐渡島さんと塩田さんはある程度地盤があって自由さがあるって見えてしまいます。「よーい、ドン」でいきなり自由だって言われても、なかなかしんどいっていうのが、若者の本音かなって思うんです。
僕らがそういう風に話していると、成功しているから言えるんじゃないかって思うのかな。
でも、YouTube、TikTok、Twitter、インスタにしたって、全部僕らと同じように自由に使える。
そこに自分の好きなことを貯めるってことは、みんなができること。自分の好きが深いかどうか、その対象に対する愛が本物かどうかって世間に誰でも表明できるから。それ自体がすごい武器になると思う。
なるほどですね。
生まれてくるタイミングって、自分で選んでると思うんだよね。この時代を味わいたくて来たって捉えると、本当の意味の自己責任になるだろうし。俺と佐渡島さんって、がっつり積み上げていく時代も味わいたかったんだと思う。
それくらい日常的に気持ちを大切にするって難しい。自分の感情状態を丁寧に作っていると、ハードシングスを楽しめるようになるっていうのかな。そこで自分がどうやって成長するのかを楽しめるようになる。
僕も先に自分を心地よくして、そこから難しいことに挑戦していくっていう順番かなって思ってます。
「つらい努力」より「やりたい努力」を探そう
次の質問にもいきたいのですが、今の学生はめちゃくちゃ努力しているんです。理不尽や不遇な環境でも我慢する、頑張る、みたいなこともあると思うんですが、いい努力、いい頑張りってどういうことだと思いますか?
筋トレもそうだけど、「勉強=つまらない」とみんな思っているわけ。学者の人達で、自分のやっている学問がつまらないと思って何かを発見した人はいない。数学にしたって、「なんて面白いんだろう!」ってずっとワクワクしているわけ。だから、本当にワクワクすることを探す努力をした方が良くて。見つけちゃったら、ただただそれを続ければいいだけ。
あと嫌なことをやってお金を貰う方が、お金を貰うのに正当化される気がして。仕事ってこっちが楽しいことをやって、そのお裾分けしたことの感謝で貰うもんだから。「一緒に遊ばせてくれてありがとう!」ってお金を貰う時代だと思っていて、それを徹底した方がいいかなって思う。
いい努力と悪い努力があるって考え方を外していいと思っていて。自分がやりたい努力とやりたくない努力があるっていう、順番にした方がいいんじゃないかな。
苦しんでいる努力って誰かから「すごいね」って言ってもらえないと満たさないんですよ。自分が見えていたビジネスの世界って、「こんだけ俺頑張ったんだから、みんな褒めてよ」って。でも、自分が選びたい方を選べば人に怒んないし、褒められる必要もないし。満たされていることからスタートする努力を選びたいよね。
若手の意思決定は自由で軽やか
次の質問になんですが、お二人が注目している20代のプレイヤー若手は誰で、その人たちはどういった素質を持っている人ですか?
『ANTCICADA(アントシカダ)』っていうレストランを去年開いた、『地球少年』っていう名前で活動していた篠原君。彼は25、6歳なのかな。とにかく地球大好きで、基本野宿で空の下で地面に触れたくて、全ての昆虫から木から全部大好きで。
そんな背景もあり、昆虫食専門の『アントシカダ』、蟻と蝉のレストランを作ったの。昆虫を愛しすぎているから、昆虫を美味しく食べさせたいって。食べてみたら、新しい味で本当に美味しいフレンチなの。僕、いろんなレストラン行くの好きだから、『noma(ノーマ)』とか、世界一のレストランも結構昆虫使ったりしてるけど、ノーマより全然美味しかった。
去年行ったフレンチの中で一番好きで。こんなに食材を愛すると、どこまでも美味しく作らねばならないっていう、それが自分の使命だって料理人は志ざすんだと思ったよ。
俺は、やっぱ野澤(笑)
ありがとうございます(笑)
創業者が20代を役員にして、それで社長を辞めようと思ったのは結構すごいことだと思う。ちょっと真面目に野澤さんの何がすごいかって聴きたい。
野澤もそうだけど、経営チームみんな若いんです。自分が会社を辞めて、手放すって決めたけど、どうやるかを決めてなくて、3か月間トータル何百時間もみんなと話したんです。
その時に、若い奴らの方が一個一個の意思決定が軽やかだと感じて。僕って情報をオープンにした方がいいって言っているけど、どっかで多分恐れていた部分があって、ここまではみんなに開示していいけど、ここまでは開示しちゃダメとか。
でも、若い奴らは、「こういうことは、公開した方が良くない?」とドンドン言ってくる。あんまり背負わないでこのチームはやれるなって思った。
僕がアカツキに見ているのは、自分の想像を超えたものが生まれてくるっていう確信です。これまで生まれたベースを軸に、若いみんなが、新しい、自由で、観念なく、失敗も含めて素晴らしいっていう旅の中で、生み出していくのを横目で見守りたいなと。
で、「あれは俺だ」って言えないけど、気持ちとしては「俺も入っているぞ!」って(笑)。
野澤さんとか、20代の人達が数年後、もう一回また若い人達に権限委譲ができるのか、しがみつくのかによってアカツキが変わりそうですね。
面接されるのではなく、会社の方から来てもらう
最後の質問になります。仮にお2人が今よーいドンで、何もない状態からスタートしてくるとしたら、どうキャリアを歩んでいきますか?具体的に何をやるのか、こういう価値観で生きていきたいみたいなところをお聞かせください。
僕はSNS上にポートフォリオを作って発信する。沢山ストックして、会社に見せる。会社に面接してもらうんじゃなくて、自分のポートフォリオに対して何社か来て、誰が一番自分をプロジェクトとして必要としているのかっていう状態まで持っていく。来てほしい会社を考えて、発信するポートフォリオを考える。そういう風にするかな。
今、一緒にやっている22、3歳のメンバーも、アカツキの中でも一番TikTokに詳しいんですよ。めちゃくちゃ頼られるんですよね、それも彼らの持っているポートフォリオじゃないですか。最近のWebメディアに強いみたいな。
今20歳だったら、変わらずときめくことだけやるね。自分は自分に三日坊主とか許してなかったんですよ、選んだことはやりきるみたいな。でも三日坊主って素晴らしいんじゃないかなって思って。味わいたい時に味わって、また手放して。でも本当にやりたいことって、一回捨ててまた手を付けることの方が、本物なのかなと思って。
僕、アカツキやっている時に「グッドはグレートの敵」っていう言葉使っていたんです。「ビジョナリカンパニー」ってヤツ、偉大な会社を作れる時に「そこそこいい」っていう言葉や、「まあいい」は敵だっていう言葉をカッコつけて使っていたんですよね。
グッドはグレートじゃないとダメで、グッドはグレートの敵っていうのって一世代前のスタンダートを作る時の企業の考え方で、ダイバーシティの時じゃなくて。そこへと変わっていったと思うんです。
僕、今日の話を聞いてすごく思ったのが、ゲームっていうのは僕らから時間を奪うものじゃないですか。僕らをウェルビーイングじゃなくすることもあるけれど、アカツキが今の塩田さんの持っているイズムみたいなのを社内が感じ取って、ウェルビーイングにさせるゲームを作ったら、それはIPづくりのすごいゲーム会社ですよね。そこまで行けると最高にいいよね。
アカツキ第一章が自分の中にあって、それは本当に素晴らしいと思うけど、アカツキのグレートさは、こっからのみんなで作られてくる感じがあるのね。なんかもっとすごいものをみんなが作ってくれる気がするから。
なるほど。僕らもがんばります!
ここで、ここまでのお話をざっくり総括させていただくと、やっぱり熱量レベルっていうのは高い方に越した方がよい。だけど、まずはその足の向き先を広げる努力をしてみるってことが大事で、そこから自分の内から湧き出てくる心地いいもの、熱中できるものを探していくっていう順番ですね。
学生が「モチベーションが高い」と「テンションが高い」を混同しちゃって、テンションが高い場所に行きたがっちゃうんだけど、そうすると疲れちゃうから。僕なんて学生の時なんかも、ずっと一人で映画観たり、本読んでてさ。テンションは高くないんだけど、心の中では「いい作品を作るぞ」とモチベーションはあったから。そういう風になった方がいいなって思いますね。
ありがとうございます!
最後に聞いていただいた学生さんに一言いただけますか?
僕や塩田さんの話をわざわざ見に来てくれたわけだけれども、今の時代って、いろんな人の考え方がネット上でリアルタイムに分かってインターアクティブにコミュニケーション取れる時代だから、1対Nの感覚じゃなくて、しっかり1対1の関係をいろんな人と取りに行って、それによって自分を変えていく。
自分がやっても相手してくれないと思うんじゃなくて、しっかりと自分が誰かと向き合いに行くところから始めるといいんじゃないかなと思います。
むちゃいい言葉じゃないですか、沁みるね。大発信できるから、多い方がいいっていうのが今までの時代感あるじゃん、沢山の人に聞いてもらった方がすごいみたいな。でもたった1人の人にしゃべる方が大事だったりするし。
モノづくりとかも、いろんなことを妄想しちゃうんけど、どこまで行っても自分のために作っているんだなって思うし。自分が見たいものを自分が作るっていう感覚だから。これからね、ときめくこと色々やっていきますので、見ている人達と波長があったりとかして、どっかで色々遊べたらいいなと思っています。
ゲスト紹介
佐渡島庸平氏
2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテインメントのモデル構築を目指している。
Twitter : @sadycork
YouTube : 編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】
この記事は2021年1月22日(金)に実施した特別企業説明会「ACE」をもとにしています。
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文:池田 鉄平 写真:市川 秀明 デザイン:松本 奈津美 編集:鶴岡 優子