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ENTERTAINMENT

【コルク 佐渡島 庸平氏 × アカツキCOO 香田 哲朗 】エンタテインメントの本質とは?

2018.11.07

916日、コルクとアカツキ。異業種のヒットメーカー二人が渋谷で語り合った

2018916日。渋谷駅周辺の大型ビジョンや広告など、至る所に歌手 安室奈美恵さんの姿がありました。引退を惜しむようにスマホで撮影する人が街中に見られたこの日、時を同じくして日本財団と渋谷区が共催した「DIVE DIVERSITY SESSION」に登壇したのは、『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』漫画 君たちはどう生きるか』を世に送り出した株式会社コルクの代表取締役 佐渡島 庸平氏。もう一人は株式会社アカツキ共同創業者 取締役COO 香田 哲朗。

先ごろ発表された「2018年ヒット商品ランキング 日経トレンディ選定ベスト30」には、1位に安室奈美恵さん、6位に今年200万部超の大ヒット作となった『漫画 君たちはどう生きるか』がランクインしました。佐渡島氏と香田、異業種のヒットメーカー二人によるセッションのテーマは「エンタテインメントの本質」。満員の会場は、開演前から観客の静かな熱気で包まれました。

 

―― お二人の自己紹介をお願いします。

PROFILE

コルク 代表取締役  佐渡島 庸平 氏 / Yohei Sadoshima

2002年 講談社に入社。週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『空白を満たしなさい』(平野啓一郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年 講談社を退社し作家のエージェント会社「コルク」を設立。

佐渡島氏(以下敬称略) 僕は講談社の『週刊 モーニング』編集部で漫画の編集者をしていました。かつては著作を出したい場合、受け皿は雑誌と出版社ぐらいだったのですが、現在はインターネット上に無数に場があります。キャリア構築を考える時にもTwitterInstagramなどに無限のパスがあります。

そんな中、今後必要なのは、戦略を練られるプロデューサーだと考えてクリエイターのためのエージェント企業「コルク」を設立しました。

PROFILE

アカツキ 取締役COO 香田 哲朗 / Tetsuro Koda

1985年 長崎県佐世保市生まれ。 佐世保高専卒業後、筑波大学工学システム学類へ編入学。 アクセンチュア株式会社に新卒入社(経営コンサルティング本部) 大手電機メーカー等、通信ハイテク業界の戦略/マーケティング/IT領域の コンサルティングを経てアカツキを創業。

香田 アカツキはモバイルゲーム事業を軸に成長してきました。現在は、AR研究やリアルな体験を届ける「そとあそび」というアクティビティ予約サイトも運営しています。また、現在横浜駅前のビルを丸ごと1棟リノベーション中です。来春にはエンターテインメント施設としてオープン予定です。

テクノロジーが進化していく中、私たちにより強く求められるのは人間性。「ハートドリブンな世界へ」というビジョンのもと、心が本当にワクワクすることを追求し、世界中を幸せにすることを目指しています。

現代のエンタメは、「ハイコンテクストの上澄み」だ

―― 本日のテーマは「エンタテインメントの本質」ですが、誰もが情報や作品を発信できるこの時代、次世代スターはどのように生まれると思いますか

香田 今はメディアが分散化していますよね。かつてのエンタメやスターは、「みんなが知っている」でしたが、今は小さなパイが増えてきているので、例えば、美空ひばりさんのような国民的スターがこの先出てくるのか。そもそも「みんなのスター」が出てくるのが最良なのかと考えることがあります。

佐渡島 そうなんですね。僕の場合、コルクを創業したのは、作家をスターに育てるエージェントになりたいという思いから。作家がスターになった後で「エージェントをさせて欲しい」と掛け合っても、大抵「時すでに遅し」です。だからその前に、スターを見出そうと思っているのですが、そこに深い悩みがありまして

香田 それは、どんな悩みですか?

佐渡島 僕が人間として成長を続けるために信条としているのが、「まずは量をこなすこと」です。量をこなしながら個々の質を上げていく。この積み重ねで編集者のスキルが培われてきたと認識しています。

その一方で、今コルクが擁する作家は156人。よい作家を見つけても、すぐにエージェント契約をせず、人間関係を築きながら、じっくり育て上げていくスタンスで一人ひとりと向き合っています。

今後いいものを作る仕組みが安定してくれば、プロデュースする作家を増やしたいとは思っていますが、現時点は本来の信条とは逆のやり方です。ただ、ひとつだけ言えることは、今僕たちが作っているものは、「量は少なくても後世に残る雰囲気を漂わせている」ということですね(笑)

香田 YouTubeSHOWROOMなど、投げ銭で稼ぐような事業が増える中で、素人っぽさが共感を得てウケていますね。それと対照的に質の高いエンタテインメントほど、時間をかけて作っているなと感じることが多いです。

佐渡島さんの「後世に残るもの作り」に共感しながら、同じフィールドに多くの素人が参入していて、そちらにもチャンスがあるとも感じます。

ソーシャルゲームの場合、「50人体制で2年間かけてゲームを作ります。予算は10億円です」というような規模感が多いので、回収見込みを計画して安定的に作る必要があります。ここで作家性を優先すると、成功の見込みが薄くなることが多いですね。

佐渡島 なるほど。僕は歴史に残るものって、初見の人にもわかるものなんじゃないかと思うんです。例えば、YouTubeには毎日追って見ていないと、使っている用語がわからなくなったりするコンテンツが多い。毎日見ている人にはすごく楽しいのに、初見だと、ちんぷんかんぷんになってしまう。

僕らが今味わっているもののほとんどは「ハイコンテクストの上澄み」のイメージがあります。例えば、最近「なるほど!」と衝撃を受けたバッハの音楽。現代では、バッハの音楽をリラックスしたくて聞く人が多いのではないでしょうか。それが実は、戦争で多くの命を失う中、心が荒んだ人々が教会で癒しとして聴いた音楽らしいと知った。

ハイコンテクストの中で作られたものが、現代でコンテクストが抜けて生き残っているんです。そう考えるとYouTubeなどハイコンテクストの上澄みから、本当に歴史に残るものが出るかもしれないですね。

香田 教えを広める場所だった教会。そこで聴くためにあった音楽が現代のエンタテインメントとして残っているんですね。

佐渡島 以前、3をどんどん足すゲームにハマったことがあるんです。3を6にして、それを12にするっていうパズルがあるんですけど、僕は「このゲームは恐ろしく意味があるものなんじゃないか」「どうして、このゲームが世に受け入れられたのだろう?」と、長時間考えたんですね。

結局分からなかったのと、あまりに自分がやりすぎるのでゲームは削除しましたが(笑)。その経験から、もしかしたら全部のコンテクストが抜け落ちた時に、「作った人すごい」とか、新たな価値が生まれているのかもしれないと考えました。

香田 なるほど、面白いですね。僕もそのゲーム、ちょっとやってみます(笑)

ロングヒットの条件とは? 「接触する場所」と「回数」が鍵に

ーー ユーチューバーやVチューバーが世に溢れる今、彼らは毎日いくつものコンテンツを公開するようになりました。短期的にヒットするコンテンツはあるけれど、ロングヒットはなかなかないように思うのですが、お二人はどうお考えですか?

佐渡島 今、ロングヒット作品が少ないのは、あまりにも日々新しいものが立ち上がっているからでしょう。「ソーシャルゲームの波は1年や2年で終わり」などと言われていましたが、一部にロングスパンも存在しますよね。しかも、ソーシャルゲームがロングスパンになった時の影響力は、ドラマや本の大ヒットよりも断然インパクトが大きいですよね。

香田 そうですね。ロングスパンで思い浮かぶのはヨーロッパの高級ブランドの「消費と生産バランス」の巧みなコントロールです。この見極めは、エンタメを届ける側として大事だと思っています。以前、Twitterで話題になった話ですが、出荷量と認知度、双方のギャップが埋まるほど二次技術がグレードアップする。2つがどんどん比例化していきます。すると、どこかのタイミングでガタッと人気が落ちてしまう。
また、以前は週に1度の新規投稿があればよかったものが、今はYouTubeで毎日新たなコンテンツを見られるのが当たり前になっているので、「今日はアップされていないのか。だったら他を見よう」とどこかへ流れてしまうんですね。

佐渡島 そうですね。今は、毎日投稿されているものの方がロングスパンになりやすいんじゃないかという気もしています。

香田 僕たちもソーシャルゲームで「毎日ログインしてもらうためには何をしたらいいのか」を日夜考えています。

佐渡島 学校の友達と長期的に仲良くなるのに似ているのかもしれませんね。部活や塾、合宿など、教室以外の場所で会ううち、長い付き合いの友達になっていく。以前、某ソーシャルゲームのリアルイベントに行った時にすごいと思ったのが、リアルカードゲームをとても大切にしていたことです。

市場の原理を考えると、めちゃくちゃ利益率が悪い。それなのに、スマホ以外の場所で手ざわりのあるものや人に触れる機会を増やしているんです。ロングスパンでゲームを楽しんでもらうためには接触回数ってとても大切なものなんじゃないか、すごい戦略だと感動したんです。

香田 おっしゃる通りです。アカツキのゲームもリアルイベントをやっているのですが、ファン同士のコミュニティを作ること、そして五感で体験していただくことでエンゲージが深くなります。非効率でもあえてイベントをやる意味は、ここにあります。

既存エンタメの要素分解・抽象化×テクノロジーで、新たな価値創出も

ーー テクノロジーで効率化できることを、あえて真逆のアプローチをする点に意味があるのですね。では、テクノロジーに対する思いは?

香田 アカツキが最近参入した esportsについてお話しすると、デジタルゲームをする人が増えるほど、上手な人のスター化が進むだろうと考えています。まさに「遊びのスター」ですね。今はYouTuberがその存在。彼らは、みんながやろうと思ってもできなかったことを代わりにやってくれる存在ですね。

佐渡島 僕はコルクを作って経営の視点で会社を見たり、人や社会の動き、市場の動きを観測してみたりするようになったのですが、やってみると世の中の見方が面白くなってきました。経営者が経営にハマるのは、最高のゲームとして見られるからじゃないかと思うんですよ。

でも、ほとんどの人はそういうメタ的な視点で見ていないなぁと。メタ的な視点で世の中を見るって、実はすごく難しい。MRARは、そのメタを現実にかますことができるから、それが面白さじゃないかと捉えています。

香田 アメリカで大人気の「TOPGOLF」というアクティビティがあるのですが、通常のゴルフとは違って、各地点に柵があり、そこにボールが当たると光が出る。まさにエンタメなんです。ダーツなども正式なルールは難しいですが、要素を分解して「投げて的に当てること」に絞ると面白い。的を風船にしたり、また、人とマッチングする手段として使ったり、新しい遊びに使えます。「ルールを一段階抽象化して球を打ち返す」原理で、何か面白いことができないかと考えています。

佐渡島 面白いですね。サッカーはJリーガーだったり日本代表だったりスターがいますが、「卓球には卓球のスター」という感じなので、他の競技のスター同士が交わる訳ではない。新しいルールのダーツが出現すれば、そのルールに見合う選手が現れ、スターが生まれるということですね。

今存在するリアルなスポーツはほとんど、選ばれし者がトップを競うゲームになっています。対して、esportsは見事に民主化されている。多くのスポーツ、エンタメがテクノロジーの進化でもっと民主化できると思っています。

香田 漫画のメインは物語ですよね。もっと言うとキャラクターです。ハリウッドではシナリオ作りはある程度体系化されているものの、実はその物語が民主化されていないと感じています。たとえば、デジタル式にここでこういうの書いたら面白くなるっていうのが把握できれば面白いのですけど。

佐渡島 顧みると、僕の編集技術は民主化されていない貴族的なコンテンツ制作ルールのような気がします。そこをゼロベースで考えた時に残るものって何だろうと考えると、もしかすると僕が今持っている知識のほとんどが無意味な知識であるという可能性もある。その一方で、こういった知見からスターやエンタメが生まれる可能性も大いにあると思っています。

仕事もエンタメに。「遊ぶように働く」時代へ

ーー エンタテインメントは、領域定義がかなり曖昧になっていると感じます。作り手として、ボーダレスになるのがいいと思いますか?社会が求めるエンタメとは?

香田 「人は何に対してお金を払うのか」と考えた時、AmazonGoogleなど実用性・効率性を求められるサービスは圧倒的にITが必要とされますが、エンタテインメントにおいては、必ずしもそうではないですよね。たとえ無駄があったとしても、気持ちいい・楽しいを追求すれば受け入れられます。

今後は職業も、効率的な領域以外をエンタメ化していかないと人に選ばれなくなり、できないものは淘汰されていくだろうと思っています。デパートでの買い物も、今やそれ自体がエンタメですよね。効率的に欲しいものを見つけたい時には、楽天やAmazonを使えばいい。デパートは買いたいものを手に取って選べる “エンタテインメント” な場所なんです。

佐渡島 全くその通りだと思います。今までは「よりよい小説」だったり「よりよい漫画」だったり時間をかけ、研ぎ澄ましたものがエンタテインメントでしたが、僕が思っているのは誰もエンタテインメントだと捉えていないものをエンタテインメント化することです。

最近だと、キングコングの西野さんが渋谷区の清掃をエンタテインメントにしましたよね。あのロールチェンジは最高だと思っています。そのようなものが、これからもっと生まれるだろうと。そもそもエンタメとは、レアな体験から生まれるもので、自分のしたことのない体験がエンタメになる。未来は、仕事が遊びになるように発達していき、全員が遊んでいるかのように仕事している。そんな風になっていくんじゃないかなって思いますね。

作り手・伝え手、双方にスター性が求められる。それが未来のエンタテインメント

ーー エンタテインメントは今後、文化として、そして社会の仕組みとして広がっていく。お二人のお話から、そのような印象を受けました。

香田 先ほどのスターの話に少し戻りますが、最近ヨーロッパで年収50億を超えるDJが現れたり、DTM界隈でスターが続々と生まれています。テクノロジーが発達して、作り手が増えていくにつれ、スターが生まれ世界に認められていく。先ほどの佐渡島さんのお話のように、まだエンタテインメントにカテゴライズされていないもの。今みんながやり始めているというような領域に注目すると、新たなエンタテインメント、新たなスターが出てくるのでは。ちょうどeスポーツで、それが顕在化してきています。次はどんな領域なのかを探っていきたいです。

佐渡島 今日は本質的な部分に近づいたお話ができましたね。最後に、私たちコルクという名前の由来を少しだけ。

僕はワインを飲むのに一番大切なのは「どんなソムリエが、どんな説明でコルクを抜いてくれるか」だと思っています。クリエイターをワインになぞらえると、誰にコルクを抜かれるかで、作品の広がり方やブランドというものが全て変わってしまう。今はそういう時代です。

香田さんのDJの話も同様で、「誰が、どんな風に音楽を聴かせるか」が重要ですよね。DJがスターになっているのも、そこに鍵がある。これまでにない見せ方、聴き方、楽しみ方を伝えられた時、それが新たなエンタテインメントとして受け入れられる時なのだと思います。


今後はクリエイターに限らず、届ける側にも明確なスター性が求められる時代になっていく。むしろ、届ける側のスター性やプロデュース力が、現在エンタテインメント領域にないものを、人々をハッとさせる新しいエンタテインメントへと変貌させる可能性を秘めている。
ーー 異業種の二人が抱く未来のエンタテインメント像が重なり合ったところで、セッションは幕を閉じました。

文:堀田 隆大 写真:大本 賢児 編集:坂井 朋子