VOICE Akatsuki

アカツキゲームスの最新情報をお届けするメディア

第2回 社員をランキングする「等級」の正体は? 登りたくなる階段を設計しよう。

2018.07.05

4月から毎月1回、全4回の日程で、アカツキが開催している「人材マネジメント講座―Wizard Course」。広く社外に開放し、人材マネジメントの本質を解き明かすのが狙いですが、「お話拝聴型」の座学ではなく、受講生同士が自社の課題や日々の業務の中で抱いた悩みを共有し、全員でディスカッションする方式をとっています。

ファシリテーターをつとめるのは、アカツキの人事企画室「WIZ」を立ち上げ、室長を務める坪谷邦生。WIZとはWizardの略で、「魔法使い」を意味します。坪谷いわく、ネーミングには人材マネジメントという魔法の力でアカツキを元気にしていこうという狙いが込められているとのことです。 魔法の力を社外の人にも伝授しようというこの講座、2回目は5月17日夕刻に8名の受講生を迎えて行われました。今回のテーマは、「等級とは何か」。受講生はあらかじめ課題図書に目を通したうえで、本講座で話し合いたい「問い」を各自ひとつずつ提出して当日に臨みました。さて、当日はどんな議論が繰り広げられたのでしょうか。

人材マネジメント講座Wizard Courseの参加者

Aさん
組織コンサルティング会社に勤務。人材派遣・紹介事業のキャリアが長く、人事経験は1年半ほどのため、この機会に体系的に学んで知識を整理し、実務に活かしたい。

Bさん
IPやコンテンツ、ブランドプロデュース事業をしているベンチャー企業の人事総務部長。事業領域を急速に拡大する中、既存の日本特有の理念経営ではない新しいあり方を模索するために勉強会に参加。

Cさん
現在立ち上げフェーズにあるベンチャー企業の社長。時流に則して事業をドライブする後押しとなるような人事評価体制を作るヒントを求めて参加。

Dさん
人材育成のキャリアがあり、転職した現在の会社では、タレントマネジメント全般、パフォーマンスマネジメントなど人材育成に広く関わっていく予定。広い視野で人材マネジメントを理解していきたい。

Eさん
リモートワークでもっと自由に働ける社会を目指し、「対等な取引ができる」副業プラットフォームを運営するベンチャー企業の社長。

Fさん
エンターテインメント系ベンチャー企業の役員。事業拡大にあたり、今後の人材マネジメントについて、新たな考えに出会うことを期待して参加。

Gさん
アカツキの 採用チームメンバー

「等級」とは何なのか? 

今回は、坪谷から受講生たちへの「問い」からスタートした。具体的には「効果の高い人材マネジメントの特徴は何か」「等級とは何か」「等級を一つ取り上げ、その特徴を述べよ」といったもの(記事下部に添付の「Akatsuki 人材マネジメント講座 第2回資料」ご参照)。いずれも課題図書に解説と答えが記されているので、指名されても言いよどむ人はいない。各自の答えに対し、坪谷が解説を加え、わかりやすい表現に変換して確認していく。この20分ほどの時間は、ちょうど良いウォーミング・アップになったようだ。

等級とは、「人をランキングするもの」である 

今回のテーマの等級とは、坪谷によると「人をランキングするもの」であり、年功等級、職能資格(職能)等級、職務等級、役割等級の4つが代表的だ(図表1.主な等級の種類
)。日本の多くの企業が職能資格等級を採用していること、欧米企業は職務によって等級が決まる職務等級を採用していること、昨今、両者の折衷ともいえる役割等級を採用する日本企業が増えていることなどを頭に入れたところで、最初の問いに移った。

問い①:自社にふさわしい等級をどう選べばよいか

下は職能、上は役割のハイブリッド

組織コンサルティング会社のAさんの問いだ。すかさず、ベンチャー企業の人事部長、Bさんが答える。「うちの場合、年齢の若い社員は職能等級で、管理職以上になると役割等級です。業績が伸びている時は人件費に余裕があるので職能を評価して昇格させやすいのですが、余裕がなくなると難しくなります。そこで職能等級は全員には適用せず、上の人には役割等級を導入しています」。
ベンチャー企業の社長、Cさんが発言する。「事業フェーズによって変わる、というのが私の答えです。うちは数名しか社員がいないミニベンチャーなので、精緻な等級はなくて、強いていえば役割等級を運用しています」
メーカーの人事、Dさんが話しはじめた。「社員の流動性の度合いにもよるのではないでしょうか。長く在籍して欲しい場合は職能等級がふさわしい。組織の規模も大きな影響を与えると思います。ベンチャー企業では誰もが何役もこなされなければならないから、職務等級は成立しないでしょう」

ここで坪谷が解説する。「実際そうですね。最近お会いしたIT系のベンチャーの人事に聞くと、多くの企業が職能等級を採用していました」
「うちは社員20名ほどですが、役割等級と職務等級のハイブリッドです」と、ベンチャー企業の社長、Eさん。「上級役職者は役割、現場のエンジニアは職務という区分けですね。たとえば、最高執行責任者(COO)には一定の経営数字を確保するという役割を担ってもらっています」

等級の設定にも一貫性を

「役割等級のように、人基準ではなく仕事基準のほうが事業計画は立てやすくなりますね」と、ベンチャー企業の役員、Fさんがこれまでとは違った方面からの意見を述べた。
「その通りです」と坪谷がうなずき、続けた。「一方で、事業計画をまず立ててしまって、異動という形で人材を柔軟に配置できるのが職能等級のメリットです。しかも、異動は本人にとって大きなチャレンジにもなりますから、人材育成の効果も高い。日本企業の多くはそうした異動のメリットを十分に活用してきたといえます」
メーカーの人事、Dさんが「トヨタはグローバルレベルでも職能等級を活用しているそうです。それだけ異動による能力伸長を重視しているのでしょう」と言うと、「人材マネジメントに大切なのは一貫性ですから、見習うべきところですね」と坪谷が付け加えた。

坪谷の「ここがツボ!」

効果の高い人材マネジメントの特徴は「一貫性」だとお伝えしましたが、等級とはその一貫性を担保するポリシーを具現化したものです。そのため一概にこれが正解という等級の形はなく、企業規模、事業特性、事業ステージ、社員の特徴などに応じて設計することになります。何を社員に期待しているのか、経営の意思を表したものです。

参考:等級とは、社員の序列・ランキングの基準であり、処遇の根拠となるもの

問い②:等級に行動評価を組み込むことは可能か

等級と評価はつながっている

最初の問いに関する議論が盛り上がり、時計は早くも6時近くを指していた。さて、まだ立ち上げ段階にあるというベンチャー企業の社長 Cさんから「等級制度をこれから作るにあたり、ビジョンに合致するアクションをした人の評価を高くしていきたい。具体的にどうしたらいいか」という問いが出た。
成果とバリュー発揮度を2軸で表すような等級を作れないものかと。現状は先ほども話したように、簡単な役割等級しか入っていません」

それを受けて組織コンサルティング会社のAさんが「社員がばらばらで、個人事業主の集まりだったような企業が、それではいけないと、協働を促すため、問題解決能力とチームワークのレベルを組み込んだ役割等級を作った」という例を紹介した。

「それは現実にうまくいったのですか。その評価は誰がどのような形で行ったのですか」とCさんが勢い込んでたずねると、「まだ1クール目なので、もう少し様子を見ないと結果はわかりません。評価は複数名の役職者が同一人物の評価を最初に行い、互いの基準をすり合わせるというやり方をしています」とKさん。
「シンプルに、役割等級のなかに求める成果とバリュー発揮の2つを含めて定義すれば良いのでは」と坪谷が指摘すると、メーカーの人事 Dさんが言う。「成果と行動評価の比率はどうするんでしょう。そこが結構難しい」と。
「そこは私も気になっているところです。成果評価80に対して、行動評価20くらいが妥当だと考えています」とCさん。
「例えば、非常にクリエイティブで素晴らしい映画を撮る監督だけど、傍若無人なやり方でキャストやクルーの信頼がなかなか得られない、といった成果と行動にギャップがあるケースに有効ですよね」とベンチャー企業の社長のEさんが話すと、一同なるほどと頷いた。
話題が等級から評価に移りつつあるようで、坪谷が「この問題は次回の評価の回で深く議論したい」と総括し、議論が終わった。

坪谷の「ここがツボ!」

成果とバリューを両立させる評価の仕組みは、General Electric社が行っていた「9ブロック」が有名です。縦軸に業績を、横軸にGrowth Valuesをとり、それぞれ高・中・低3段階の全9マスのマトリックスで評価を行います。Cさんはそれを知ってか知らずか、そのような仕立てを考えているようでした。
議論は等級から評価の各論へと発展しました。等級と評価は密接に関係しているため、そのこと自体は自然なことですね。しかし議論の迷子にならないように図表2に示したような人材マネジメントの全体を見渡して考えましょう。(「評価」については次回テーマ3で、その結果を反映させる「報酬」についてはテーマ4で詳しく扱います)。
報酬まで視野に入れると、成果とバリュー行動は評価の比率ではなく、成果は賞与、バリュー行動は月給と報酬の反映先が異なる設計も考えられます。

図表2.人材マネジメントの領域
(坪谷邦生『人材マネジメントの壺ARECHITECTURE』P15より)

参考:人材マネジメントをひとつの図で「体系的」に捉える

問い③:職務定義書を正確に書けるようになるためには、どうしたらいいか

職務定義書は現場マネージャーが書くべし

この問いはベンチャー企業の社長 Eさんのものだが、実はEさんの企業の事業内容と密接に関係している。「企業向けの人材紹介をやっており、その際、企業からいただく求人票が的を射ていない例が多い。求人票が書けないということは職務定義書が書けないと同じことです」
等級に話を紐づけると、それでは職務等級を運用できないことになる。
「日本企業の人事は職務定義書を書くのが苦手です。新卒には不要ですし、中途は人材紹介会社を使って採用するのが主なので、書く必要がないからですね」とアカツキの採用チームのメンバー、Gさんが背景を解説する。
どうしたらいいのだろうか。「同じ職種の人なら書けるんです。つまり、職務定義書は人事ではなく、人を採用する現場のマネージャーが書けばいい」(Gさん)
「求人票につながる職務定義書は採用マネージャーが書くものとばかり思っていました。その指摘は目から鱗です」とメーカーの人事 Dさんが声を上げた。
それに対し、「職務評価を専門にやっているコンサルティング会社にお金を支払い、職務定義のデータベースを利用するのも手です」と坪谷が言った。

遂に事業化の案まで登場

議論が盛り上がり、意見がぽんぽん飛び出す。それに刺激されたのか、問いの提出者であるEさんがこんなことを言い出した。「職務定義書作成サービスの事業化を目指します。大企業向けのサービスが展開できそうです」。拍手が起きた。
面白い発言があると次が続くものだ。Gさんいわく、「こんな人が欲しい」ではなく、「こんな人は要らない」という逆職務定義書もつくるといいかもしれない、と。
「それを応募者にも公開すれば、自然に応募も少なくなり、採用の効率化につながるかもしれません」と、メーカーの人事 Dさんが応じた。 
「いっそ、自分自身の職務定義書を書いて互いに見せ合いませんか。そうやって複数を見比べると、いい書き方、悪い書き方を学べるので全体のレベルアップにつながるはずです」
とEさんの乗った発言が続く。「いいですね」「やりましょう」。一同大きくうなずいていた。

坪谷の「ここがツボ!」

実際の業務と働く一人ひとりを知っているのは現場のマネージャーです。そのため、人材マネジメントの主体者はマネージャーだと言えます。
人事は専門知識を持ってマネージャーを支援する役割だと考えてください。職務定義書も、採用担当者が頑張って無理やり書いても実態にあったものにはならないかもしれません。
人事はむしろ人材市場や採用手法の動向、採用の原理原則を持っている必要があります。職務等級であるなら職務分析や職務定義を専門とするコンサルティング会社の知見を活用することも検討しましょう。
等級の理想は、社員が自分の意志で登りたくなる階段といえます。人事が専門知識を持って設計し、現場のマネージャーが使いこなせる形を目指したいですね。

参考:マネージャーの仕事は、メンバーが最高に貢献できる「環境の創造」である

どんな環境で議論するか、という場の問題

本講座も2回目とあって、お互いの出自や人柄に関する理解が深まったためか、より実りのある議論が繰り広げらたように見えた。
最後にこんな感想があった。「直前の仕事と頭の切り替えが難しい。ようやく頭が慣れてきて、本気で議論するぞと思った頃、時間切れになってしまう。次回は最初から本気モードに入れるよう、頭の体操を十分にしてから臨みたいと思います」(Fさん)。
今回は会場となった部屋がたまたま狭く、お互いの肘が触れんばかりの状態で座りながら議論が繰り広げられた。「何を誰と議論するか」という問題とともに、それをどこでやるか、という場の問題も重要だ。その窮屈さがかえってお互いの親近感を増し、議論の活性化に貢献したのかもしれないと思えたのである。

Akatsuki 人材マネジメント講座 第2回資料

あなたの会社では、何を基準に社員の等級を決めているでしょうか?

アカツキ 人事企画室WIZ 室長 坪谷邦生

4回講座の第2回目は「等級」です。みなさん、等級をご存知でしたか?知らなかった方も、どうぞ安心してください。実はほとんどの社会人の方が、そうなのではないかと思っています。

等級とは、「人を何かの基準によってランキングするもの」 ー aさんとbさんがいたら、「どちらが上か」を決めるもの ー です。

フラットな組織、平等な機会、公平な評価という言葉を企業からよく聞く昨今では、この時点で違和感がある人もいるかも知れません。しかし、よく考えてみてください。給与、処遇はみんな異なっています。何かで確実に格差はついているのです。その格差が「何の基準」でついているかを明確にしたものが「等級」なのです。フラットといいながら実は格差をつけている企業より、どこで格差をつけるか明言する企業の方が、間違いなく誠実だと私は感じます。

さあ、ではあなたの会社は何を基準に社員をランキングしているのでしょうか?そして、それはなぜでしょうか?年齢、勤続年数、役職、職務、能力、成果、過去の貢献…。答えられますか?

実は、ここは誤解している方が多い領域でもあります。例えば、私がこれまで出会った多くのマネージャー(管理職)や人事の方々もよく誤解されていました。特に転職してきた人は前の会社の等級の考え方に引きずられてしまい、周囲と話がうまく噛み合わないこともあるようです。

等級が知られていなかったり、誤解されたりすることがあるのは、その組織の中ではすでに前提となってしまっているため、日常で考える機会がないからです。そのため、こうやって各社の等級を遡上にあげて見比べることは、滅多にない貴重な機会です。私自身にとっても、人材マネジメントの構造を生々しく感じる学びの場となりました。

第3回のテーマは、「評価」です。

「評価」とは、やってもやらなくても同じという「悪平等」をなくすためのものです。参加者の皆さんも興味が強い部分だったため、全4回の中で最も活発な議論となったと感じています。お楽しみに!

講師:坪谷 邦生

リクルートマネジメントソリューションズ社にて人事コンサルタントとして50社以上の人事制度構築・組織開発支援に携わる。アカツキに入社後、人事企画室WIZを立ち上げる。中小企業診断士。Certified ScrumMaster。

文:荻野 進介 イラスト:荒井 理江