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キッズ向けIP「クマーバ」総再生回数1億回のVTuberはどう生み出されたか

2020.06.19

誕生からわずか1年で月間再生回数(VTuber部門)1位を獲得した、キッズ向けYouTubeチャンネル「クマーバチャンネル」。5月末にはDJクマーバとしてメジャーデビューも。YouTubeから始める“リーン”な事業創出の裏側を、プロデューサーの樋渡昇一郎が語ります。

樋渡 昇一郎 Shoichiro Hiwatashi クマーバチャンネルプロデューサー

1985年長崎県佐世保市生まれ。東京農工大学卒業後、IVSテレビ制作入社。『ザ!鉄腕!DASH!!』のADからキャリアをスタート。『ネプリーグ』、『ハモネプ』、『カラオケ★バトル』のディレクターや、キッズ番組の立ち上げ、演出を担当。2017年アカツキへ。複数の新規事業を経験し、YouTubeで『クマーバチャンネル』を立ち上げる。

成長の秘訣は「リーンな事業づくり」

——「クマーバチャンネル」の勢いが加速しています。チャンネル登録者数は12万人、月間再生回数は3200万回を突破し、月間再生回数ランキング(バーチャルYouTuberカテゴリ)で1位を獲得。5月末には、ユニバーサル ミュージックの邦楽レーベルEMI Recordsから、「DJクマーバ」としてメジャーデビューも果たし、YouTubeの枠を超えた活躍を見せています。そもそも、なぜYouTubeを活用したIP事業を立ち上げたのでしょうか。

新規事業を立ち上げて黒字化するためには、①市場の成長性と②ビジネスモデルの二軸が重要です。事業立案したのは2018年の秋頃で、まだまだ市場が伸びる見込みのYouTubeに着目しました。YouTubeのビジネスモデルは、再生数×再生単価の広告収益構造。非常にシンプルで、投資対効果が把握しやすいことも魅力の一つだと思いました。

さらに、事業創出において重要なのは「自分の強みを活かすこと」。私は前職のテレビ番組制作会社で番組のディレクター・演出を行っていた経験から、映像分野には強みがあります。そこで、当初は「とにかく面白いYouTubeチャンネルをつくろう」と考えていました。

クマーバ収録の様子

——メディアミックス展開は、立ち上げ当初から考えていたのですか。

当初は考えていませんでした。まずは「今YouTubeに参入するとしたら、どのジャンルがいいだろう?」と考えて市場分析をしたところ、あることに気づきました。

大人向けのジャンルは、どれも軒並みレッドオーシャン。企業も積極的に参入しています。しかし、キッズ向けチャンネルの数は全体の6%ほどに留まっていました。
人気チャンネルのチャンネル登録数・再生回数は多く、需要はありそうなのに企業があまり参入していない状況です。当時1歳の子どもがいたこともあり、自分の子どもをターゲットにするのはいいんじゃないかと、ジャンルを「キッズ向け」に定めました。

「キッズ」と一言で言っても幅広く、小学校に上がるくらいになると、多くの子が「Hikakin TV」や「はじめしゃちょー」などの有名YouTuberの動画を見るようになります。では、入学前の未就学児を対象にしてはどうだろうかと。ターゲットは、2〜4歳に設定しました。

チャンネルの着想は、韓国企業が配信している『Pinkfong!』から得ました。3Dキャラクターが童謡を歌い、踊るもので、人気ソング『Baby Shark』は累計再生回数は約54億回にのぼる世界的ヒット動画です。未就学児向けには「歌×ダンス×3Dキャラクター」だ!と確信した私は、歌って踊るキャラクターの制作を決めました。

同時に、YouTube単体で黒字化させるのではなく、キャラクターを財産とし、デジタル/リアルの垣根を越えて他のメディアに展開していくIPビジネスモデルへと事業を切り替えました。

YouTubeチャンネルは、ゲームやテレビアニメと比べると、比較的低コストで制作・運営することができます。まずはYouTubeに軸足を置いて、コストを抑えながら原作としての価値を高めることが、メディアミックス展開につながっていくのではないか。この考えを、私は「リーンな事業づくり」と呼んでいます。

youtubeを原作に、メディアミックスを展開

さらに言うと、未就学児向けのキャラクタービジネスにも勝機があると思いました。未就学児に「好きなキャラクター」を聞いたアンケート結果を見ると、未就学児、特に0〜2歳児は、人気キャラクターに明らかな偏りが見られます。1位のキャラクターが3割強ものシェアを占めているんです。ところが、年齢が上がれば上がるほど、好きなキャラが細分化していく。「圧倒的に強いキャラクターがいない」、つまり「参入の余地がある」と見ることができました。

愛され、広がるための“戦略的”キャラクターづくり

——キャラクター「クマーバ」はどのようにして生まれたのですか。

未就学児には「歌×ダンス×3Dキャラクター」でアプローチするのが効果的――まずは私のこの仮説が正しいのか、検証することにしました。フリー素材を使って、3Dの動物キャラクターが踊る動画を制作し、配信してみたのです。キャラクターの動きは、私のダンスをモーションキャプチャして生成しました(笑)。無名のチャンネルとして宣伝もせずに立ち上げたのですが、1カ月で1万5000回の再生数を達成。この結果で「歌×ダンス×3Dキャラクター」はいけると、仮説が確信に変わりました。

クマーバの3dモーションをチェック中

次に、キャラクターづくりです。私たちは事業の中核に「キャラクターと一緒に楽しく成長できるYouTubeチャンネル」にすること、そして「親子の愛」というテーマを置き、これを体現するキャラクターは?と考えていきました。

実は、ここまでの思考の過程で、キャラクターを考える上での「条件」がいくつかできていました。

  • 「対象は未就学児」=丸みのあるフォルムで2頭身
  • 「一緒に成長する」=知育的な面があるため服を着ていること
  • 「歌って踊る」=踊れる身体であること
  • 「メディアミックス・リアルイベント展開を想定」=将来的に着ぐるみに展開できること

こうした制約を手掛かりにしつつ、テーマである「親子の愛」からキーワードをブレイクダウンして、キャラクターをつくっていきました。キャラクター制作の過程では、現在クマーバのチームにも加わってくれている、いとうとしこさんの著書『売れるキャラクター戦略~“即死”“ゾンビ化”させない~』が大変参考になりました。

『売れるキャラクター戦略~“即死”“ゾンビ化”させない~』 いとう としこ (著)

『売れるキャラクター戦略~“即死”“ゾンビ化”させない~』 いとう としこ (著)

https://www.amazon.co.jp/dp/B01NCJFGYO/

紆余曲折を経て、現在のクマーバのキャラクターが出来上がり、東京オリンピック・パラリンピック2020のマスコットキャラクターを手がけた谷口亮さんに、キャラクターデザインをしていただきました。

——さまざまな事例から着想を得たり、成功モデルを抽出したりしながら、ロジックと検証を重ねて、キャラクターを生み出したのですね。

そうですね。特に、実際に検証したことは良かったと思います。YouTubeには「視聴維持率」という指標があって、視聴維持率が40%を超えると「いい動画」と認定され、おすすめ動画としてもピックアップされやすい、と言われています。検証動画の時点で40%を超えたので、これはいけるのではと確信が深まりました。

一つのプラットフォームで圧倒的に愛されることから始める

——現在のクマーバの人気の秘訣を、どのように考えていますか。

再生数が伸びた要因はいくつかあると思いますが、大きいのは、やはり歌・ダンス動画であること。何度も繰り返し見てくれるお子さんも多いようです。最近の「おうち時間」の増加も、影響していると思います。

 

Youtube動画URL: https://www.youtube.com/watch?v=5JVLSXMS8fU

さらに「クマーバ」をお子さんが愛してくれているのは、お母さんの力も大きいと思うのです。アンケートによると、現在の視聴者層は0〜1歳が7割を占めています。仮説ですが、産休・育休中のご家庭も多いのではないでしょうか。「クマーバチャンネル」を流すことで、お子さんが笑顔になる。だから、お母さんも「クマーバ」を見せよう、と思ってくれるし、愛してくれる。そんな構図ができているのではと思います。

親子でクマーバを楽しんでいる様子

——これまでもリアルイベントの開催、他社とのコラボ企画など、YouTubeに限らない活躍をしていましたが、5月末にはメジャーデビューし、ユニバーサル ミュージック社との協業でオリジナルソングを配信していくなど、いよいよメディアミックスが本格化していきます。多メディア展開を念頭に置いた、IP創出の秘訣はありますか。

DJクマーバ

私も道半ばではありますが、まずは何か一つのプラットフォームで突き抜ける実績をつくることは、重要だと思います。キッズ向けVTuberという独自性と、月間再生数で国内チャンネル140位という実績は、他のブランド・事業とのコラボを実現する上で非常に重要な要素かな、と。

加えて、多メディア展開する際の弊害をつくらないことでしょうか。「いつかコンサートを行うときのために、着ぐるみを展開できるキャラにしよう」「ストーリーがどんどん展開していったときに登場人物を増やせるよう、動物をモチーフにしたキャラにしよう」など、プラットフォームが変わっても活躍できるようなキャラクター設定にすることは、心がけていましたね。

今後、早い段階で海外へ積極的に仕掛けて行きたいですし、グッズ玩具も他企業とコラボレーションして実現したいと準備中です。また、IP同士のコラボレーションもやっていきたいですね。
そして、いずれは「クマーバ」を、ぜひテレビアニメ化したいと思っています。軸足はYouTubeに置きつつも、YouTubeでは届かない層の人たちにも「クマーバ」を知ってほしい。その先にある目標は「クマーバ」を50年以上は続けること。世代を超えて長きにわたって愛されるキャラクターへと育てていきたいですね。

クマーバ関連情報

文:塚田 智恵美 編集:鶴岡 優子