アカツキ台湾が担う「海外展開」と「多言語カスタマーサポート」の重要性とは
2021.07.19
2014年、台北の落ち着いたオフィス街に設立されたアカツキ台湾(現地名、曉數碼股份有限公司)。2010年創業のアカツキにとってこの設立は、たった4年目での大きな決断でした。現地法人との提携などの選択肢もあったなか、独自の組織を台湾に設立した意図とは?
本シリーズ「アカツキ台湾 これまでとこれから」では全3回に渡り、アカツキ台湾が海外展開に果たす大きな役割、台湾ならではの社内カルチャー、新しく立ち上がったゲームスタジオについて掘り下げます。
第1回目ではアカツキ初の海外拠点となったアカツキ台湾設立の経緯や、役割について、2019年から2021年6月までCEOを務めた田川 勝也さんにお話を聞きました。
第2回 海外進出から7年。独自に築き上げたアカツキ台湾のカルチャー
第3回 アカツキ台湾発のオリジナルゲーム『Behind the Frame』。デザイナーが語る、物語への没入のために張り巡らされた工夫
田川 勝也 Katsuya Tagawa曉數碼股份有限公司(アカツキ台湾)元CEO 現アカツキ ゲーム開発ギルドGM
1993年宮崎県出身、2016年にアカツキに入社し、プロジェクトリーダーやディレクターを経験。2018年にアカツキ台湾へ赴任し、2019年からCEOを務める。2021年7月からはアカツキに戻り、ゲーム開発ギルドにおいてGMを務める。趣味はテニス。
アカツキ台湾が担う3つの役割
ーアカツキ台湾の役割について教えてください。
田川 アカツキ台湾には主に3つの役割があります。まずは、アカツキが開発したゲームタイトルの海外展開です。具体的には、さまざまなタイトルの海外版運営・ローカライズおよび開発・各国アプリストア配信を手掛けています。
そのほかにも、各配信国のプレイヤーの意見を集めてゲーム運営に活かすカスタマーサポートやプロモーションも担っています。最近ではアカツキ台湾独自のゲーム開発にも小規模ながらトライしています。
「ローカライズ=翻訳するだけ」ではない。ネイティブメンバーが担保するゲーム体験
ーアカツキ台湾では広範囲な業務を担っているんですね。まず、ゲームを海外で運営するために必要なことについて教えてください。
田川 ゲームの海外運営のための業務は「ローカライズ/開発」と「配信」に分けることができます。「ローカライズ/開発」というのは言語を翻訳したり、配信国に合わせた機能を搭載したりすることです。翻訳言語は4言語(中国語繁体字、韓国語、英語、フランス語)で実施しています。
一方の「配信」は各国でゲームをダウンロードして遊ぶことができるようアプリストアで配信することです。タイトルにもよりますが、アカツキ台湾では全世界50以上の国・地域に配信を行っています。この「配信」にはいわゆる販売経路戦略などの部分も含んでいます。
ーなるほど。アカツキ台湾設立当初は、知見がないなか海外での運営がはじまったと聞いています。どのようなことからはじめたのでしょうか?
田川 最初は『シンデレライレブン※1』を検証して、ローカライズ/開発や運営のどこにネックがあるのか探していくところからはじめました。大きく舵を切ったのは、協業会社さまのIPなど、海外である一定の知名度があるIP※2を本格的に海外展開するタイミングでしたね。そこから順調に成長していきました。
※1 『シンデレライレブン』:2013年にアカツキがリリースした女子校生育成サッカーゲーム(2020年にサービス終了)
※2 I P:知的財産。ここではアニメや漫画のタイトル、キャラクターのこと
ーさまざまなタイトルをローカライズ/開発していく上で、大切にしていることはどのようなことですか?
田川 基本的でありながらも大切なのが、翻訳のクオリティですね。翻訳自体はパートナー会社さんと一緒に行なっているのですが、最後のチェック部分に関しては社内でもネイティブメンバーを置き、必ずネイティブメンバーの目を通すようにしています。どれだけ外国語能力があっても、ネイティブの感覚は重要です、言葉だけでなく、それぞれの言語・文化に適したより深い翻訳を心がけています。
また、クリエイティブと翻訳のバランスも留意しています。西欧言語はアジア言語に比べて文字数が長くなるので、そのまま翻訳すると“意味は分かっても画面が文字だらけ”という状態になってしまうことがあります。そういった状態にならないよう、場合によっては翻訳を調整したりしながら行う「クリエイティブの担保」も重要なことです。
ーただ翻訳するだけではなく、細かな配慮で海外のユーザーさまのゲーム体験を守っているのですね。では、海外でゲームを運営していくうえで大変なことは?
田川 海外版のユーザーさまにサプライズを届けるため、ときには日本版と同時タイミングでゲーム内のキャンペーンを行うこともあります。しかし、その際のオペレーションは大変なことも多いですね。代表的なのが休日対応で、国ごとに異なる休日に対応するために、それぞれの国・地域ごとにシフトを組み、ラグが発生しないよう留意しなければなりません。
また、海外版と日本版のアプリバージョンが異なることによる施策調整が発生することもあるんです。このような問題が発生した際には、ひとつひとつ日本版のメンバーと細やかにコミュニケーションを取りながら調整を進めています。
こういった時にありがたいのが、「助け合う」「理解し合う」文化がアカツキ全体に根付いていることです。問題を一気に解決できるような”銀の弾丸”はありませんが、言語や距離が離れていても双方向のコミュニケーションを諦めず、解決策を見つけることで、着実に問題解決ができる体制が作れています。
アカツキ台湾の強み「多言語カスタマーサポート」とは
ー「カスタマーサポート」についても教えてください。どのような業務ですか?
田川 カスタマーサポートには2つの側面があります。ひとつめは、プレイヤーさまからのお問い合わせに対応すること。ふたつめは、各国のゲーム専用掲示板(例:台湾は巴哈姆特、アメリカはreddit)やFacebook、TwitterなどのSNSに書き込まれたプレイヤーの意見を確認し、開発にフィードバックすることです。
このふたつめの「フィードバック」はモバイルゲームにおいてとても重要で、ゲーム作りや今後の運営に大きく影響するのです。カスタマーサポートが得た情報をもとに「次、どうしていくか」と、協業会社さまと日々対話し、ゲームのクオリティ向上をめざしています。
ーさまざまな地域のプレイヤーの意見を集積できるというのは大きな強みですね。「プロモーション」も担うとのことですが、こちらはどのようなことを?
田川 タイトルによっては現地プロモーションも行っています。ゲームディレクターが出演し、最新のゲーム内イベントやアップデート情報を発信するウェブ生放送番組や、ファンの皆さまが集うリアルイベントを協業会社さまと実施しています。
生放送をするうえで気を遣うのは、ゲームアプリの海外版と日本版のあいだで発生するアップデートのタイムラグです。アジアでは日本の情報をキャッチアップしているコアファンの方が特に多く、彼らが日本版の展開をベースに海外版の施策を予想することがあります。こういった場合には、次の施策の解説やユーザーさんからの質問に直接回答し、ユーザーさまに正しい情報をお伝えするようにしています。こういったタイムラグはあまり起こらないよう調整はしていますが、どうしても発生してしまう時には配慮が必要です。
アカツキ台湾が大切にすること
ー田川さんが2018年にアカツキ台湾に赴任されて、今年帰国されるまでの約4年間でモバイルゲームのグローバル展開はどう変化したと感じますか?
田川 5年程前までは、日本では日本産のゲームを、中国では中国産のゲームを、アメリカではアメリカ産のゲームをというように、国産品をプレイする時代でした。しかし近頃は、モバイルゲーム市場のボーダレス化がかなり進んでいると感じており、ゲームのプラットフォームも急速に整備が進んでいます。
この状況下でゲームの運営をしていくにあたり、「質の高い翻訳」の重要性は変わりませんが、これだけではサプライズは届けられないなと感じているんです。ゲーム運営だけではなく生放送やリアルイベントを通じてユーザー同士のコミュニケーションを促すことも大切で、ファンマーケティングはより重要になってきています。具体的には、海外版独自のサプライズや文化や慣習にあったイベントの企画も行うのが良いかなと思っています。今後、現地の文化に踏み込んだ深いローカライズはもちろん、ファンマーケティングの施策も強化していきたいですね。
台湾で働く日本人メンバーにとって、アカツキ台湾でのグローバル対応は、日本のアカツキに持ち帰った時にも重要な経験になると思います。
【取材後記】
グローバル展開が需要なモバイルゲーム業界において、台湾に拠点があることがアカツキにとって大きな強みになっていますね。
さて、第二回ではアカツキ台湾のカルチャーについてお伝えします! お楽しみに。
第2回 海外進出から7年。独自に築き上げたアカツキ台湾のカルチャー
第3回 アカツキ台湾発のオリジナルゲーム『Behind the Frame』。デザイナーが語る、物語への没入のために張り巡らされた工夫
取材/文:阿部 真那美 編集:大島 未琴