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『勝てるデザイン』前田 高志さん講演会 デザイナーが本当におもしろい仕事をするために必要なことは?

2021.07.14

2021年6月9日、アカツキが開発するゲームやサービスのデザインを手がけるメンバーが集まるクリエイティブチームは、ゲストを招いた社内向けの講演会を開きました。

今回お招きしたのは、株式会社NASU 代表取締役 クリエイティブディレクター/デザイナーの前田 高志さん。任天堂株式会社にて約15年間宣伝広告デザインを手がけ、独立後にはデザインの仕事だけではなくコミュニティ運営も精力的に行っています。

今回は事前に募集したトークテーマに沿ったお話や、前田さんが2021年3月に出版し、各所で話題を集めている本『勝てるデザイン』のこぼれ話などの内容を一部抜粋し、皆さんにお伝えします。進行役はアカツキのクリエイティブディレクター/デザイナーの笠原 智敦が務めます。

前田 高志 Maeda Takashi株式会社NASU 代表取締役 クリエイティブディレクター/デザイナー

大阪芸術大学デザイン学科卒業後、任天堂(株)企画部にて約15年間、宣伝広告デザインに従事。独立後、2018年に株式会社NASUを設立。

笠原 智敦 Kasahara Tomoatsu株式会社アカツキ クリエイティブディレクター・デザイナー

2015年にアカツキへデザイナーとして入社。前職では企業ブランディング、広告、商品パッケージなど、多岐にわたるプロジェクトにビジュアルクリエイティブ制作担当として参加。アカツキでは新規事業のUI/UXデザイナーとして複数のサービス立ち上げに携わっている。

自信につながった「躊躇しないキャンペーン」

トークテーマ1:やった方がいいこと・やらなくてもよかったこと

用意されたトークテーマ

用意されたトークテーマ

笠原 前田さんがデザインのキャリアの先輩として、後輩たちに伝えたい「やってよかったこと」「やらなくてもよかったこと」はありますか?

前田 僕は慎重すぎる性格なので、以前は何を始めるにも時間がかかっていたんですね。会社を辞めて独立したいな、と思い始めてからも辞めるまでに3年かかっていますし、その時はずっと同じ部署にしがみついて変化を恐れていました。でも、独立してからは1年くらいで「きっと食いっぱぐれることはない」とわかった。そのきっかけになったのがセミナー登壇の仕事をちょっと無理して受けたことでした。

当時は喋りに自信があったわけでもないため、登壇に不安があったのですが、やってみたら意外とうまくいった。その時に自分でつくって個人的に実施したのが、「躊躇しないキャンペーン」です。少しでも気になったら、躊躇せずにやってみるキャンペーン期間。少し足踏みしてしまうことでも、すべてそのキャンペーンのせいにして実行するようになったら、すぐに動けるようになりました。

笠原 自らかけていたブレーキをキャンペーンのせいにすることで解除したんですね。そうなると、「やらなくてもよかったこと」を理解するためにはなんでも躊躇せずにやるべきということですか?

前田 そうですね。だから「やらなくてもよかったこと」は思い出すのは難しいんですが、ひとつ思い出しました。S N Sなどの発信をいろいろ試していた時に、「毒吐きキャラ」をやってみたことがあるんです。それはやらなくてもよかったな。発信は自分を映す鏡なので、毒を吐いていると集まってくるのも毒を吐いている人なんです。自分の周りに集まってきてほしい人をイメージして発信すべきですね。情報を集める上でも積極的に発信すればするほど、いい情報が集まってくる。

コミュニティは生き物。熱量を高めるためにした工夫

トークテーマ2:コミュニティ作りの良さ・大変なところ

笠原 前田さんはオンラインサロン「前田デザイン室」を率いていますよね。こういったコミュニティ作りについてお聞かせください。

前田 コミュニティには生き物的なところがあるので、常にウォッチして改善するのがとても大変です。僕が常に前田デザイン室に愛を注いで注目していないと、みんな離れていってしまう。また、新しく入ってくるメンバーと、前から所属しているメンバーのバランスもすごく難しいです。メンバー同士の絆をつくるのもとても大事ですが、あまり固定のメンバーで仲良くしすぎると、新しいメンバーが入りづらくなってしまう。

笠原 コミュニティの中で完璧な輪ができてしまうと、居心地はいいですがその輪に飽きたら離れていってしまう、ということもあるかもしれませんね。

前田 そうなんです。その時にメンバーを増やさなくてはと感じました。今は310人を超えるメンバー数ですが、さらに増やしたいです。

笠原 『勝てるデザイン』のなかでも触れていますが、前田デザイン室ではメンバーだけではなく前田さん自身も本当に楽しんでいることが伝わってきます。前田さんが前田デザイン室を運営する上で最も大切にしたいことはどんなことですか?

前田 一番に考えているのは「ものづくりを純粋に楽しむこと」。前田デザイン室は「仕事とは一切関係のないものを作る」場所にすると最初に決めたので、やりたい人が、やりたいことを、やりたい分だけやれる楽しさがあります。だからこそ熱量が高まり、オリジナリティがあり、一切手を抜いたところのないプロダクトが出来上がっているんです。前田デザイン室は僕自身のサードプレイスにもなっているので、これからもっと前田デザイン室に時間を使えるようにしたいと考えています。

オーダーに応えるデザインをしているだけだと驚きは生まれない

トークテーマ3:待っていたらダメ

『勝てるデザイン』より

笠原 僕が個人的に『勝てるデザイン』の中で刺さったのが<21 待ってたら作りたいものは一生作れない>という章でした。これは本当にそうだなと。

前田 任天堂時代に作った新卒採用ポスターやゲームハード販促用のミニパンフレットの話ですね。

笠原 会社から受けた仕事を会社から求められたように応える、というのをやっているとジャンプしたクリエイティビティは作れないという内容で。求められたものはクリアしつつ、「こんなのも作りましたが」と提案する仕事のやり方。これは誰もがやらないと、クリエイターとしてずっとモヤモヤし続けるだろうなと思いました。

前田 “やらされ仕事”って一番おもしろくないですよね。自分で仕事をつくると主導権を握れておもしろい。与えられた仕事もそのままやるんじゃなくて、自分なりにこうしよう、ああしようと考えればおもしろくなる。オーダーに応えるデザインをしているだけだと驚きは生まれないですね。

笠原 いま前田さんは会社の代表として社員に仕事を与える立場ですが、この立場になったからこそ感じることはありますか?

前田 仕事をお願いした時に、求めたレベルを越えてきてくれる人はすごくありがたいし、もっと仕事を教えたいと思います。仕事を見た時に「そうきたか!」と楽しくなるし、勉強になる。逆に、求めたレベルに全然足りていない、あまり考えていないな、と感じた時には「俺より時間があるのに、どうして俺より考えないんだろう」って思ってしまう(笑)。

笠原 お願いした仕事がその人にとって“やらされ仕事”にならないよう、きちんと考えてもらうようにするのにはどうすればいいか? というのは悩みどころですよね。

前田 そうですよね。本人にとっても前のめりに仕事した方が楽しいと思います。求められたレベルを越えていけば上司と先輩が楽になるし、そうすれば自分にいい仕事が回ってくるようになる。もちろん自分に力もつく。本当にいいことしかないですよね。

デザイナーが若手デザイナーのために本気で書いた本は、ビジネスパーソン全体に役立つ

笠原 『勝てるデザイン』はデザイナー向けに書いたんですか? それともデザイナーではないビジネスパーソン全体にも向けて?

前田 最初はデザイナー向けの本だと聞いていたので、若いデザイナーの参考になるような情報を書いたんです。でも、編集者さんは“デザイナーが若手デザイナーに向けて本気で書いた本は、ビジネスパーソン全体にとって参考になる”と考えたようで。

笠原 僕はデザイナーとして読んでみて、懐かしさを感じました。いろいろと試行錯誤しながらやっていた時代を思い出して。デザイナーの先輩が、後輩の新人デザイナーにおすすめするのもよさそうです。

前田 『勝てるデザイン』はデザインという言葉が入っているからデザイン書とされがちですが、デザイン書にしてはビジネスコーナーにも置いてもらっている本で、デザイナーだけではなくいろいろな方に読んでもらえています。これはもっと読者層を広げて、デザインというのはこんなに試行錯誤していて、おもしろいものだと知って欲しいですね。

勝てるデザイン

前田 高志 著
幻冬舎 刊
Amazon/公式サイト

【講演会を終えて】

今回前田さんに講演をお願いしたのは、前田さんがゲーム業界にいた方というのもあり、社内のメンバーも親近感をもってお話を聞けるのではないかと思ったためです。

実際にお会いした前田さんは飾ることなく等身大のご自身を語られる方で、失敗談やどうチャレンジしたか等のお話しをたくさんしていただけ、社内メンバーからも「納得度が高かった!」「仕事にはない刺激がたくさんあった」といった声をたくさんもらっています。

1時間では話しきれないことがまだたくさんありましたので、また別の機会をまた設けられれば良いなと思っています。前田さん、どうもありがとうございました。(笠原)

文/編集:大島 未琴