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ゲームシナリオライターをめざすには? アカツキゲームスの現役ライターが語るリアルな現場事情

2023.01.10

前編では、アカツキゲームスの現役シナリオライター2名が「ソーシャルゲームならではのシナリオライティング」について語りました。後編となる今回は、ゲームシナリオライターをめざすために必要な能力やキャリアパス、そしてアカツキゲームスのシナリオライター職がもつ最大の特徴である、シナリオ制作マネジメントチーム「ROOTS」について掘り下げます。

水野 崇志 Mizuno Takashi 株式会社アカツキゲームス シナリオ職(ROOTS)リーダー

フリーランスのシナリオライターとして10年間の活動を経て2017年、シナリオディレクターとしてアカツキへ入社。同年、プロジェクトを横断したシナリオ横串チーム「ROOTS」を発足しリーダーを務める。

小森 千晶 Komori Chiaki 株式会社アカツキゲームス シナリオライター/プランナー

2018年、アカツキにプランナー枠で新卒入社。プランナー業務・シナリオライティング業務・進行管理などを務め、現在はプランナーを兼務しつつシナリオライターを務める。

ソーシャルゲームシナリオライターに求められる能力とは? 作家性や才能よりも必要なこと

Point
ゲームシナリオライター志望者に必要なのは「タスク管理能力」「ほどほどの謙虚さ」「インプット」

・ゲームは総合芸術。多職種のクリエイターと連携し、リスペクトすること

・ゲーム愛のある人は、シナリオ以外にも目を配ることができる

 

―まずは、シナリオライター志望者に求められる能力を教えてください。

小森  私が考える必要な能力はふたつあります。ひとつはオーダーにしっかり応えて、締め切りまでに書き上げること。これはクリエイターにとっては基本的なことに思えるかもしれませんが、シナリオは他の開発工程より上流にあることが多いため、シナリオができていないと他の開発が滞ってしまいます。そのため、期日までにしっかりとタスクをやり遂げる能力は大事だと思っています。

もうひとつは、ほどほどに謙虚であること。現場ではディレクターから「企画の方針に合うように、物語や設定を直してほしい」とフィードバックをいただく場合もあります。フィードバックをしっかり受け止めて、時には自分の作風やこだわりを曲げてでも、ゲームの仕様に合わせたシナリオを仕上げます。

―作家性やセンスよりも基礎的な社会人スキルが求められる仕事なのですね。

水野  そうですね。小森さんの話は、趣味ではなく仕事としてシナリオライティングを行うえで大切なことです。ゲームの開発現場では、メンバーとのコミュニケーションがとても重要になりますので。僕から付け加えると、シナリオを書き続けられることもひとつの素質だと考えています。書き続けるためにはインプットが重要です。過去の現場でもスランプになる方が非常に多かったのですが、大抵が自分の知識だけで書こうとして引き出しが足りなくなり、手が止まってしまった結果でした。そのため、スランプに陥られないようにインプット等を積極的にできるかどうかで、シナリオライターとしての寿命が変わると思います。

―先ほどお聞きした基礎的な能力に加えて、「活躍できるゲームシナリオライター」について、お2人から聞いてみたいのですが。

水野  前提、プロジェクトによって活躍できる方は異なりますが、他者をリスペクトできる方は活躍できる幅が広いと思います。

ゲームのシナリオは、ひとりで書き上げただけでは完成しません。イラストレーターやプランナー、サウンド担当者やプログラマーなど、さまざまなクリエイターと連携し、そのなかで最適解となるシナリオを書き上げることが重要です。

そんな相乗効果を生み出せる方は信用されていきますし、裁量も大きくなります。チームで作るよりも個人で物語だけを書きたい方は、小説などを書いたほうが楽しめると思います。

―人の和が重視される仕事ということでしょうか?

水野  もちろん必要な衝突もありますが、他者を軽視した結果の衝突は必要ありません。ほんの少し言葉を選んだり、理解してもらう努力をするだけで、開発現場は非常にスムーズになりますので。

そのほかに思いつくのは「シナリオを逃げ道にしない方」でしょうか。「あれに失敗した、これも失敗した、でもシナリオならできるでしょ!」と消去法で挑戦される方はオススメできません。やはりポジティブな思いで挑戦されてる方が活躍されています。その点で、小森さんは本当に執筆が好きなので。入社直後からも、お昼休みにTRPGのシナリオを書いていましたよね。

―小森さんは本当に書くことが好きなんですね。小森さんからも意見をいただけますか?

小森  経験の浅い私が言うと偉そうなので、あくまで「一緒に働いて楽しい人」を挙げると、ゲームが好きな方がいいですね。いろいろな表現媒体があるなかであえてゲームシナリオの道に進むなら、ゲームへの強い想いがあってほしい。それに、ゲームが好きでなかったら、物語以外の要素に目を向けづらくなってしまいます。

ゲームはシナリオをはじめ、グラフィックやサウンド、ゲームシステムなどさまざまなクリエイティブが合わさった総合芸術です。例えば絵に興味がないと背景アートの設定も曖昧になってしまい、アート担当者が困ってしまいます。

―ゲームのことならなんでも好き、という人が向いていそうですね。

小森  やはり想像力が行き届く方や、「こんな表現がしたい!」というような、自分がゲームで表現したいことを他の人に説明できる方とは仕事がしやすいと感じます。

ソーシャルゲームシナリオライターが歩むキャリアパス

Point
・ライティングに特化してプロジェクトのメインライターになるパターン

・領域を広げてプランナーやディレクターの道に進む、兼業するパターンも

・メディアミックスに関わる機会もある

 

―ここからは話を変えて、キャリアパスを聞かせてください。シナリオライターは業界内でどのようにステップアップしていくのでしょうか?

水野  業界全体で言えば、ライティングに特化してメインライターとしてプロジェクトの主軸を担う方もいれば、小森さんのようにプランナーとシナリオライターを兼業する方もいますし、ディレクターの道に進む方もいます。また、チームから信頼されてスキルが認められれば、メディアミックスでノベルやアニメなどに関わる機会もありますね。

キャリアを切り開くために重要なのは、続けるのはもちろん、周りから認められること。活躍して信頼を勝ちとることで、キャリアが開けていくと考えています。

―アカツキゲームスの社内ではどのようなルートがあるのでしょうか?

水野  アカツキゲームスはシナリオ職の正社員採用は僕が最初だったこともあり、キャリアパスはまさに開拓中です。ただ、多くの方がたどっているのは、まずシナリオライターとして活躍いただいて、ステップアップでシナリオチームリーダーを務めてプロジェクトを牽引していただくルートですね。

チャンスがあれば新規プロジェクトの立ち上げもできますし、メディアミックスに挑戦もできる。これらは事業のタイミングにも左右されますが。

―最近では、『八月のシンデレラナイン(ハチナイ)』のノベル版4にもシナリオ職(ROOTS)のメンバーが関わっていますね。

水野  もう4年ほど活躍してくださっている方で、ノベルの執筆にもとても情熱をもって取り組んでくださいました。

シナリオ職としても、メディアミックスは積極的に挑戦したいと考えています。もちろんメディアによる表現の違いも理解したうえで、ゲームシナリオを担当するシナリオライターが関われたら、ユーザーの皆様にもより楽しんでいただけると考えています。

アカツキゲームスでの新卒社員の働き方

Point
・アカツキゲームスの新卒社員はさまざまな職種を体験し、開発工程を理解する

・小森さんは実力で希望ポジションを勝ち取った事例

・人を大切にする姿勢を学び、実務に活かせる

 

―ちなみにアカツキゲームスのシナリオライターは新卒と中途ではどちらの比率が多いですか?

水野  いまは中途がほとんどで、新卒からライティングを担当されているのは、小森さんを含めて数名です。

―新卒で入社した小森さんに伺いたいのですが、アカツキゲームスに入社すると最初に任される仕事はどういったことですか?

小森  私の場合入社したのはアカツキで、2022年のアカツキゲームスの分社化と合わせて移籍しました。アカツキでの1年目はプランナーを務め、その後シナリオライター業務も担当するようになり、2年目からROOTSに参加しています。アカツキの新卒社員はプランナーやCX(※1)など、ゲーム運営に関わるさまざまな職種を体験してそれぞれの専門領域へ進んでいくんです。

水野  新卒の方にはゲームづくりの開発工程を理解してもらうためにさまざまな部署へ参加してもらっています。小森さんも、その中でプランナーとしてシナリオ業務に関わったのが最初でしたね。

小森  具体的には、シナリオファイルの整理やフレーバーテキストの執筆、監修者からの要望を受けたシナリオ修正対応などを行いました。CXの部署でユーザー対応もしましたし、検証チームでバグチェックも。振り返ってみると、全体的に「新しく0から1を作る仕事」ではなく、クリエイティブを支える仕事を担当していました。

水野  僕は小森さんのトレーナーを担当していましたが、本当に真摯に対応される方で、ひとつひとつの工程を確認し、メモを残して地道に働いてくれていました。各部署で成果を出し、信頼を勝ち取っていたので、CX部署から「もっとこの部署で働いてほしい」と言われていましたね。

彼女はずっと「シナリオを書きたい」と言っていましたし、プライベートでもコツコツと執筆を続けていました。そのうちシナリオ業務に小森さんが関わるようになり、最終的には小森さんがいないと回らない体制になっていたので、実力でいまのポジションを勝ち取った形になります。

―小森さんは、幅広い業務に関わるなかでどのようなスキルや技術が身についたと感じていますか?

小森  学べたのはチームワークです。アカツキの仕事には、常にチームの状況を把握して、共有して、相談するプロセスが求められます。そのなかでチームで活躍するノウハウが身に付きました。あとは、人を大切にする姿勢も。これはアカツキやROOTSに共通することですが、皆さん人をとても大切にしてくれるんですね。

シナリオで悩んだ時はチームメンバーに「このキャラならどういうふうに話すかな?」と相談できますし、私がプランナーとしてシナリオチームの進行管理をしていた時も水野さんが悩みを聞いてくれました。

そのおかげで仕事を続けられているので、チームのひとりひとりと向き合って、関係性構築の大切さを学びました。

―学びを制作現場で活かせたエピソードはありますか?

小森  チームメンバーの制作物に対してフィードバックする時は、できるだけ相手の立場を想像して、ロジカルに意見を伝えています。「なんか違うんだよね」と言われてもどこを直していいか分からないですし、感情的にぶつかってしまうとお互いに気持ちよく仕事ができません。「お互いに協力して作品をよくしよう」という姿勢を伝え、関係性を壊さないように心がけています。

※1 CX(カスタマーエクスペリエンス)  顧客体験を向上させる部署で、カスタマーサポートのなかでユーザーの意見を汲み取って改善点をピックアップしている

ROOTSのこだわりは、シナリオライターに向き合い仕事に集中できる環境を提供すること

Point
・ROOTSは各ゲーム開発プロジェクトのシナリオチームリーダーが課題やノウハウを共有する場

・現場のヒアリングや1on1を通してシナリオライターが働く環境構築に力を入れている

・所属するシナリオライター同士が刺激しあい、高め合える

 

―シナリオ制作マネジメントチームのROOTSについて前編でも少し伺いましたが、所属しているメンバーはどういったことをしているのでしょうか?

水野  各プロジェクトのチームリーダーは定例会議で、現在の課題やノウハウを共有しあっています。また、半年に一度、必ず全シナリオライターと僕が話す機会をつくり、現場のヒアリングや環境構築に力を入れてきました。

―シナリオライターさんと向き合い、仕事に集中できる環境を整えているんですね。そういった環境は、業界内では珍しいのでしょうか?

水野  少なくとも僕が今まで働いてきた現場ではなかったです。例えば、何の説明や紹介もないままプロジェクトに席だけ用意された現場もありました。そういう時はとても不安になります。だからこそ、アカツキゲームスのシナリオライターの方に同じ思いはさせたくないんです。

―ROOTSのめざす理想形はどのようなものですか?

水野  ROOTSでは、再現性をもって幅広いプロジェクトで活躍できる方を育成したいと考えています。将来的にできる仕事の幅を広げ、肩身の狭い思いはしてもらいたくない。担当するプロジェクトの魅力を見つけて前向きに取り組んでくださる方をサポートするため、研修や制度を整えています。

僕自身もROOTSのメンバーからたくさんの刺激をもらっています。それぞれが優秀なクリエイターですし、その方たちから聞くアイデアやノウハウはとてもおもしろいです。僕は生涯クリエイターでありたいので、メンバーとは常に「自分のほうがおもしろい」と刺激し合いたいですし、良い意味でメンバーのみんながライバルだと勝手に思っています(笑)。

小森  お互いに高め合っていくためには自信が必要ですよね。自分自身を褒められると、少々叩かれても折れません。ちょっと傲慢ですけど、叩かれても「いや、でも自分はおもしろいと思ってる!」と考えられれば心の支えになりますし。

水野  それくらいエゴが強くてもいいのかもしれません。前編のゲームシナリオ制作に関する質問でも、小森さんが「書いていると自分が天才と思う瞬間がある」と話していましたが、そういうタイプのほうが楽しく書けるんです。僕もそのタイプで、書き終えて冷静に読み返すとヘコむんですけど(笑)。

―エゴのバランスが重要ですよね。ありすぎても駄目だし、エゴが全くないと辛いでしょうし。

水野  エゴと共存することが重要かもしれませんね。

小森  できれば飼い慣らすところまでいけるといいですね。でないと、ディレクターと喧嘩しちゃったりするので。

水野  「飼い慣らす」はとても分かりやすい表現ですね。

「ゲームシナリオライターの地位を向上させたい」、だからROOTSを立ち上げた

―アカツキゲームスのシナリオライターとして働くやりがいや励みについて聞かせてもらえますか?

水野  僕がアカツキゲームスやROOTSで働く原動力として、「ゲームシナリオ担当者の地位を向上させたい」という思いがあります。「技術をより正しく認知してもらいたい」と言ってもいいかもしれません。

僕はこの業界で筆を折ってしまうシナリオライターをたくさん見てきました。そこには個人の事情だけではなく、職場環境や関係者などさまざまな要因がからんでいて。有望でセンスの良い人材が業界から離れていく姿を見て、「才能を取りこぼすことがないようにしたい」とずっと思ってきたんです。

アカツキは「人を大切にする」というカルチャーを掲げています。この会社ならば、不幸な形で筆を折ってしまう人を減らせるだろうと思い、アカツキに入社して、組織づくりに取り組んできました。

―それだけハードな業界なのでしょうか。

水野  やはりハードな一面もあります。ゲーム業界はまだ歴史が浅いので、ノウハウが属人的になりがちです。また、立場が上の方から感覚だけで「つまらない」と言われ、現場のメンバーから説明や反論を一切許されない現場もあります。どう直せばいいか指示が曖昧な場合もありますし、そのつまらないと言われたシナリオが、別の日には評価がひっくり返ることもあります。

僕自身も感覚的なコミュニケーションを取られたことがたくさんありますし、納得できないこともありました。その中でメンタルをやられてしまう人もたくさん見てきました。そういった状況はアカツキゲームスでは決して起こしたくないです。

だから、ROOTSのメンバーから「チームがあって助かった」とか「働きやすい環境です」と言ってもらえるとすごくうれしいんです。

物語を紡ぐ先に何を見るのか? ふたりが実現したい夢

―最後に、おふたりがこれから実現していきたいことを教えてください。

小森  自分は世界観やキャラクターなどすべてを自らつくって、どーんとでっかい形でゲームを出したいです。そこはゲーム業界に入った以上、いつか絶対成し遂げたいことです。構想はまだ具体的にはなっていませんし、本当に自由にやっていいよと言われたら困ってしまうんですけど。

―それは楽しみです! まさにゲーム業界人の夢ですね。

小森  そうですね。夢は持ち続けていきたいです。

―水野さんの実現したいことは?

水野  僕は、ゲームシナリオライターという職業とスキルの特殊性を正しく認識してもらえる世のなかにしていきたいですね。希少なスキルをもつ職種だと知ってもらえれば、シナリオに関わる方がもっと活躍できる業界になっていくはず。

長らくスキルの属人化が続いてきた業界ですし、プラットフォームやハードが常に進化してきたので、定石や常識も更新され続けてきました。そういう意味で、なかなかノウハウが残りにくい業界ですが、頑張ってナレッジを蓄積していきたいです。ゆくゆくは業界全体でノウハウを共有できる仕組みや、いろんな才能が花開くきっかけも生み出していきたい。

―ゲーム業界のなかで、シナリオが先駆けて共通言語をつくれるといいですね。

水野  本当に、なんとしても実現したいですね。もうひとつ、個人的には物語をさまざまな場所へ届けていきたいです。物語やストーリーテリングが求められる場所はエンタメだけではないと思っています。例えば、病院のリハビリに物語やゲーム性を追加すれば、小さな子どもも楽しくリハビリが続けられるかもしれません。

―実在する場所でシナリオを役立ててもらうんですね!

水野  今後はVRやARも普及していきますし、シナリオが求められるシーンは広がっていくはず。僕はこれからもシナリオの可能性を広げていきます。

ROOTSではともに活躍してくれるゲームシナリオライターを随時募集しています。ご興味があればぜひ採用ページをご覧ください。

―おふたりのお話から、ゲームやシナリオ制作に関わる人たちの熱い想いが伝わってきました。これからも同じ熱量をもって動いてくれる仲間が集まるといいですね。本日は長時間ありがとうございました!

文  鈴木 雅矩 編集  大島 未琴 写真 大本 賢児

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