表情やしぐさで体験の質を高める。ゲームアニメーションの仕事
2020.09.17
ゲームを通じて「心が動く体験を届ける」ことを重視しているアカツキ。そのために欠かせないのがアニメーションデザイナーの存在です。アニメーションチームを束ねる申政淳が、ユーザーをゲームにグッと引き込むアニメーションの仕事について語ります。
INDEX
ゲームにおけるアニメーションの役割とは
——キャラクターの動きや背景、バトルシーンの演出など「アニメーションのないゲームは考えられない」と思うほど、スマホゲームではアニメーションが多用されています。ゲームにおけるアニメーションはどんな役割を果たしているのでしょうか。
申 私はゲーム内のアニメーションを「ユーザーに届ける『体験』の質をより高めるための表現手法」だと考えています。
ゲーム内に用いられているアニメーションには、いくつかの種類があります。例えば、タイトルや画面遷移、ガチャ画面などに用いられるUIアニメーションや、キャラクターの動きや表情・仕草に用いられるキャラモーション、効果演出などに用いられるエフェクトのアニメーションなどです。
特別な「動き」がなくても、ゲームをプレイすること自体はできるかもしれません。ですが、必要な箇所にアニメーションを用いてリッチに表現することで、「複雑なものをわかりやすく」「期待、緊張、達成感といった感情を醸成しながら」伝えることができます。
ユーザーがゲームに没頭しやすい環境をつくり、より感情に訴えることで、ユーザーの「ゲーム体験」の質を高める。それがゲームにおけるアニメーションの役割だと考えています。
ゲームの世界観にぐっと引き込む工夫
申 クリエイティブ戦略室では、プロジェクトを横断してデザイナーのマネジメントや課題解決のサポートをしていて、必要に応じて忙しいプロジェクトに戦力として参加する場合もあります。私は、その中でもアニメーションの分野を担当しています。ここからはアカツキの具体的なゲームの制作事例を交えて、アニメーションの工夫や効果について話したいと思います。
アカツキのオリジナルIPゲーム『八月のシンデレラナイン(以下、ハチナイ)』は、「青春×女子高生×野球」をテーマにした”野球型青春体験ゲーム”です。プレイヤーは同級生監督として、女子キャラクター達を指導・育成しながら、共に”甲子園”という夢を追いかけます。
ハチナイの物語体験のテーマである「青春」と「野球」が、アニメーションでどう表現されているのか、実際にハチナイを担当しているアニメーションデザイナーの黄 雯睿(HUANG WENRUI)に説明してもらいます。
黄 まず、ハチナイのオープニングに使用されるキャラモーションについて、紹介したいと思います。キャラモーションは「そのキャラクターの生き生きとした様子や魅力、臨場感」を引き出す効果があります。
例えば、こちらのゲームのオープニング画面のメインキャラクターの動きについて、演出を比較してみます。
黄 右の方は風に髪をなびかせることで、より生き生きとしたキャラクターの魅力を引き出すことができています。
キャラクターのパーツは、ゲーム制作でよく使用されるボーンアニメーションツール(階層的に設置された骨格のつなぎ目を基準に、動きをつけていく技法)を使って動かしています。背景の波や海のきらめきだけでもキャラクターは十分に映えるかもしれませんが、海風に髪がなびくモーションが追加されるだけで、キャラクターと一緒にその場にいるような臨場感が増します。この臨場感が、ハチナイの「青春」を表現するための重要な役割を担っています。
ハチナイの3周年のタイトルアニメーションにも、アニメーションの工夫があります。これは、協力会社さんにお手伝いいただいたイラストに社内でアニメーションをつけたものなのですが、『ハチナイ』の世界への入り口として、それぞれのキャラクターの個性を表現しています。
黄 シチュエーションは「夏休みも部活の練習へ」。ここではより没入感を出せるように、メインキャラクターの有原翼が画面の向こうの監督(ゲームのユーザー)に手を振る演出を入れています。また、視線や会話などの細かい仕草でキャラクターたちの関係性や性格を表現したり、飛行機雲や走るトラックの土煙、ペットボトルの雫など、キャラクター以外の自然風景の動きが「夏休み」のシズル感を強調しています。
このような一枚のイラストに込められたキャラクターたちの青春の「瞬間」を、アニメーションの力でより臨場感ある青春体験として届けています。
設定を守りながら動きをつけることに妥協しない
——「青春」ともう一つ、ハチナイが大切にしている「野球」らしい表現については、アニメーションでどのような工夫をしているのでしょうか。
黄 野球表現のアニメーションは、野球経験者による中間チェックを入れています。どんなに見栄えのするアニメーションに仕上がっていたとしても、野球としての違和感があればハチナイのテーマとのズレが生じ、体験が損なわれかねません。野球好きのユーザーの方も多いハチナイだからこそ、フォームや野球に関する仕種は細部までチェックしています。
とても細かい話になるのですが、例をあげて紹介したいと思います。
こちらのパーツ分け指示書は、2020年の八夏祭というハチナイの一大イベントのワンシーンのものです。去年の優勝校であるライバルが、優勝旗を堂々と掲げています。当初はその場に立って旗を降っていましたが、中間チェックで「実際には優勝旗は振るものではない」と指摘をもらいました。ですが、旗を振った方が確実に感情に訴える迫力のある絵になります。そこで、旗を振る動きは残したまま、一歩足を前に出すモーションを追加しました。旗は足が前に出た時に自然と揺れたことになり、指摘してもらったポイントはクリアできました。
プロジェクトの上流から体験設計に関わる「デザイナー」としての役割
——こうしたアニメーションを「デザイン」する、アニメーションデザイナーとはどんな仕事なのでしょうか。
申 新規開発時は、企画の大筋やコンセプトが固まり、α開発以降の段階でアニメーションデザイナーがプロジェクトにジョインします。そのゲームらしさが見えてきたところで、「具体的にどんなゲーム体験を届けるか」の設計から携わるイメージです。
スマホゲームは「つくったら終わり」ではありません。開発後は、開発時期にはできなかった機能の実装や、ユーザーの反応を見た上での改善が常に求められます。ユーザーの声をヒアリングしながら、「よりわかりやすく」「気持ちよくゲームに没頭できるように」アニメーションを追加していきます。つまり、アニメーションデザイナーは、単にアニメーションを使ってリッチな表現を制作すればいいというわけではないんです。
一つの画面の中には、さまざまな情報があります。例えばステージクリア画面なら、達成した「スコア」、「ベストスコア」などの表示、獲得したアイテムなどです。これらすべてを強調して伝えると、アニメーションの時間も長くなり、次へ進みたいユーザーにとってストレスになりかねません。
大事なのは、「何を優先して伝えると、どんな順番で伝えると、感情を動かせるか」をユーザー視点で考えること。ユーザー視点の情報整理や体験設計が重要なのは、ゲームに限らずあらゆるデザインの仕事に言えることだと思います。
UIアニメーションがゲームの達成感や満足度を左右する
申 これから紹介するのは、パズルゲームのステージクリア画面としてのUIアニメーションを想定してつくった例です。実際の制作現場の流れはプロジェクトによって多少異なる部分はありますが、このような流れで進んでいきます。
*紹介するUIデザイン例はデザイナーの小林大輔が作成しました
①UIデザイナーとUIアニメーションの演出についてブレスト
UIデザイナーとブレストしながら「この画面の演出を通じて、ユーザーにどういった体験を届けるか」を話し合いつつ、全体の動きを制作していきます。
②全体の動きを制作して方向性の確認を行う
ここでは、ステージをクリアしたあと、獲得したポイントをカウントアップしていくことでユーザーの期待値を高めることを狙いました。また、獲得したポイントがベストスコアを超えたときに派手な演出を見せることで、ユーザーに達成感や満足度を感じてもらおうとしています。
③エフェクトの追加や細かい動きの調整
全体の動きを制作して、方向性の確認を行ったあと、達成感や満足度を向上させるためにエフェクトの追加や細かい動きの調整を行っていきます。
アカツキのゲーム制作の起点は「プロジェクトへの熱量」
——申さんはもともと、Webデザインの仕事をしていたと伺いました。他の業界からゲームのアニメーションデザイン領域に転身するケースは多いのでしょうか。
申 広告業界で、Flashを用いた動的コンテンツの制作などを経験したのち、2013年にゲーム業界に転身しました。他業界からの転身者は意外と多く、特にWeb業界や映像制作会社、CG会社などで「動き」をつくる仕事を経験してきた人は、転向しやすいのではないかと思います。
一方、他業界のアニメーションデザインとゲームのアニメーションデザインでは、デザインに関する考え方に多少の違いがあります。その「違い」が逆に、これまでのゲーム業界の常識にとらわれない表現やアイデアにつながることも多い。チャレンジしたい意欲があれば、実戦の現場で学びながら制作することは可能だと思います。
もちろん経験や実力は重視していますが、特にものづくりへの「熱量」を問われるのが、アカツキのゲーム制作の現場。私が日々感じているのは、アカツキにいるデザイナーたちは「自分が携わるプロジェクト」に対しての愛が深いということです。日々の仕事の中でも、自分自身がそのプロジェクトを通じて感動したことを、そのままユーザーに伝えたいという気持ちが、制作のクオリティにつながっていると感じます。
ただしプロジェクトに参加したてのデザイナーと、長く携わっているデザイナーでは、知識量も、愛情の量も違って当然です。そのため、プロジェクトに参加後、IP(Intellectual Property:知的財産)に対しての理解を深めるために一定期間を設けてキャッチアップさせるなど「好きになるための取り組み」を積極的に行っています。
チーム内で、毎日の定例会の後に「私は、このIPのここが好き」などの思いを語り合う時間は、チーム内でIPへの理解を深め合う良い機会にもなっています。
総じて、アカツキはゲームに関わるデザイナーの「仕事」として、「プロジェクト・IPを好きになる」ことを重視している環境だと感じています。その「好き」が、ゲームの世界観への深い理解となり、ユーザーのゲーム体験を高めることへとつながっているのです。
参考情報
- アカツキ クリエイティブの求人一覧
https://hrmos.co/pages/aktsk/jobs?category=1220948668153475072 - アカツキ ゲーム事業部特設サイト
https://game.aktsk.jp/
文:塚田 智恵美 写真:杉能 信介 編集:鶴岡 優子