『JAZZ-ON!』楽曲の真髄【前編】声優の個性と作品の「らしさ」を両立するための曲作り
2021.05.28
市立湊ヶ丘高等学校のジャズ部を舞台に、「SwingCATS」と「星屑旅団」に所属する16人の男子高校生が織りなす青春ジャズストーリー――。アカツキが贈るメディアミックスプロジェクト『JAZZ-ON!』は、楽曲&ドラマCDシリーズを中心に2019年11月に発売したCDより第1部が始動。2021年1月から突入した第2部は、部員たちが4ピースバンドを結成して「MMジャズアンサンブルコンテスト」に挑戦するというストーリーで、2021年6月2日に発売されるCDを含めた4枚のミニアルバムを通して、16人全員の物語が描かれます。
『JAZZ-ON!』最大の魅力は、熱いストーリー展開と、キャラクターたちの感情が歌やバンドと見事にシンクロした本格派ジャズミュージックにあります。本作のプロデュースを手がけるアカツキ・坪井翼と、第2部より音楽ディレクターを務める作曲・編曲家の杉浦“ラフィン”誠一郎さんに、実際の楽曲制作資料を見せていただきつつ、第2部のこだわりと制作中のマル秘エピソードを聞きました。
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“JAZZ×高校生×青春ストーリー”『JAZZ-ON!』に見る新規IP立ち上げの裏側
坪井 翼 Tsuboi Yoku株式会社アカツキ 『JAZZ-ON!』プロデューサー
2017年にアカツキへディレクターとして入社。前職ではエンタメ領域の研究開発やIPの原作開発を経験。アカツキ入社後は『八月のシンデレラナイン』の開発ディレクターを担当し、『JAZZ-ON!』プロジェクトを立ち上げる。
杉浦“ラフィン”誠一郎 Sugiura Rafin Seiichiroアトミックモンキー所属 作曲・編曲家
アトミックモンキー所属の作詞・作曲家/編曲家/音楽プロデューサー。『鬼滅の刃』『呪術廻戦』などのコミック作品PV楽曲を多数担当するほか、『おねがい♪マイメロディ』『ゆるゆり』シリーズのテーマ曲やキャラクターソングの作編曲も手がける。また、文化放送 超!A&G+内番組テーマソングを多数担当中。
オファーをもらったとき、「来た、ジャズか!」と身構えた
―2021年1月から新規ストーリーと新規楽曲による第2部が展開中の『JAZZ-ON!』。第1部と第2部では、全体的なテイストも変化しているように感じます。具体的に、どのような部分が変わったのか教えていただけますか?
坪井 まず第1部は、16人いるキャラクターや作品全体の雰囲気を知っていただくための「お披露目の場」の意味合いがありました。ですから、多くの人に受け入れてもらうためにグラフィックもポップにつくっていましたし、キャラクターイラストも比較的アイドルっぽさを意識していました。
一方の第2部は、精神的な意味での「ジャズ」をより表現したく、ストーリーではキャラクター同士のぶつかり合いなど、心の内の泥臭い面を描いたり、ビジュアルなどではダークな印象を強めたりしました。ぼく自身も趣味でジャズ演奏をしているので、精神面の表現まで挑戦したい想いもあったんです。
坪井 そこで、バリエーション豊かな作曲家の方々に依頼していた第1部とは異なり、(杉浦)ラフィンさんに音楽ディレクションをお願いして、楽曲全体の統一感と物語とのコラボレーションを追求しました。具体的には、モダンジャズ以降のアドリブ合戦を意識した、かっこいいジャズ、クールなモダンジャズのテイストに寄せていった感じです。
―ラフィンさんは第2部からのご参加ですが、『JAZZ-ON!』にどんな印象を持ちましたか?
ラフィン さまざまな音楽ジャンルのなかで、やはり、ジャズには敷居の高さを感じる方も少なからずいらっしゃると思います。『JAZZ-ON!』は、あえてそこに果敢にチャレンジしている。音楽家のひとりとして、素晴らしいことだなと感じます。正直、お話をいただいたときは、「来た、ジャズか!」と身構えた部分はありましたが(苦笑)。
坪井 わかります(笑)。
ラフィン これまで、アニメーションのキャラクターソングや、声優さんに歌っていただく楽曲制作はたくさん経験してきました。しかし、ひとつの音楽ジャンルに特化してそれを貫くことは、あまりやったことはありませんでした。しかも今回はジャズ。インストゥルメンタル・ミュージックとしてのイメージが強いジャズと、声優さんの歌声を聴かせる音楽は、「聴かせる」部分が真逆ともいえます。ですが『JAZZ-ON!』は、キャラの心情がインストの音楽と紐づいていて、さらに心の声が歌として聞こえているという設定。そこにジャズをかけ合わせていくことは、じつに面白いしやりがいがあるなと感じました。
坪井 そう言っていただけると、嬉しいです。私もラフィンさんとご一緒するのは今作がはじめてでしたが、最初の打ち合わせから、音楽作品として『JAZZ-ON!』の本質をしっかり捉え、どういう楽曲にすると良いか、方向性を提示してくださいました。アイデアも豊富に出してくれて、その熱量の高さも嬉しかったです。
―そもそもジャズは、プレイヤーの感情や音楽性をぶつけ合ってグルーヴを生み出す音楽。ご自身もジャズバンドを経験されてきた坪井さんと、ロック・ポップスにも造詣の深いラフィンさんがタッグを組んだことで生まれるケミストリーは、そのままジャズの精神にも結びつきますね。
ラフィン 第2部の音楽制作がスタートして10か月ほど経ちますが、ジャズという単語に縛られ過ぎないことをずっと意識しています。ぼくはロック畑の人間ですが、「ロックってどういう音楽?」と聞かれても一言では言えない。それと同じくらい、ジャズの解釈もさまざまです。当然、クラシカルに襟を正して聴く、尊敬すべきジャンルではありますが、ジャズという言葉だけで勝手に敷居を高くするべきじゃないなと。ビッグバンドジャズを聴けば、あの音圧やリズムに理屈抜きでワクワクする。
坪井 そうですね。ジャズといっても、スウィング・ジャズ、モダン・ジャズ、フュージョンなどジャンルの幅は広い。その分、音楽としての懐も広いはずなんです。ラフィンさんが入ってくれたことで、固定観念に縛られなくていいと気づいたことはぼくにとって収穫でしたね。
ラフィン もし、ぼくと坪井さんの好きなジャンルが被っていて、二人が専門的でニッチな方向を向いていたら成功しなかったと思うんです。ジャズ初心者の目線を入れて、『JAZZ-ON!』の間口を広げることが、ぼくの役割ですから。
シナリオを熟読。「一人のファン」として聴きたい楽曲をつくった
―どのように楽曲制作を進めていったのか、具体的に教えてください。
ラフィン まず坪井さんから、「第2部ではこういうイメージの曲をやりたいです」という全12曲分のオーダー表をいただきました。
坪井 この人物とこの人物がこういう想いをぶつける曲で、こういうシーンを踏まえて曲調はこうしたい、という自分のなかのイメージを細かく書いた表ですね。
ラフィン ぼくの15年間の作曲家生活で、いちばん熱量の高いオーダー表でした。坪井さんのなかにはすでに楽曲が確立されていて、ぼくはそれを汲み取って「正解」を生み出さなければならない。(オーダー表を)見た瞬間は、さながら、パラシュートで降下して小さな的に降り立たなければいけない、くらいのプレッシャーを感じました(笑)。
なかでも『Tone of Stars Alpha』は最も印象に残っています。聴いていただくとわかりますが、変拍子でつくられた曲なんですね。坪井さんのオーダーにも「キメキメの変拍子で」と書かれていて、超絶技巧の楽曲をイメージされていた。そこにまず驚いた。なぜなら、普段ぼくが声優さん用につくる楽曲は、キャラクターを演じながら歌うことが前提なので、お芝居する余地がある「歌いやすい曲」を求められるんです。でも『Tone of Stars Alpha』は真逆の発想。頭を抱えると同時に、これまでのセオリーとは外れた挑戦ができることから、「これをやれるときがついに来たんだ」とワクワクしました。
『Tone of Stars Alpha』鳴海ロラン(古川慎),天城輝之進(堀江瞬),安藝月玲玖(村上喜紀),桐生蒼弥(益山武明)
―ラフィンさんは第2部の楽曲制作を始めるにあたって、ストーリーのシナリオも熟読されたそうですね。
ラフィン 坪井さんとのはじめの打ち合わせでもお話したのですが、第1部を踏まえての第2部なので、音楽のクオリティーもより高めたいし、リスナーさんにももっと喜んでもらえる楽曲をつくりたい。それらを叶えるためにどうすればいいかを考えたときに、ストーリーパートと歌をよりリンクさせる必要があると思ったんです。楽曲とストーリーをセットで楽しめるシリーズなので、曲を聴いてドラマを聴き、ドラマを聴いて曲に戻ると、さらにキャラクターへの想いが深まる。だから、シナリオは欠かせませんでした。
坪井 第2部ではぼくが半分くらいのシナリオを書いているんですが、最初はまだプロットしかお渡しできてなかったんです。楽曲制作が進んだ途中で「シナリオが完成しました」とラフィンさんに連絡したら「すぐください!」と(笑)。
ラフィン まずは一人のファンとして楽しむことが大事だったんです(笑)。実際、その視点はすごく役に立っています。『JAZZ-ON!』のリスナーさんは、音楽だけでなく声優さんの演技とキャラクターの魅力にも没頭したいと思うんですね。ファンになってはじめてわかることもあって、それも楽曲制作に活かされています。
坪井 ラフィンさん自身がシナリオとともに楽しんでくれたことで、キャラクターの深い部分を読み取った楽曲になったのだと思います。キャラクター同士の因縁を描く、いわゆる「シンメ曲※1」では、特にそういった会話感を実感していただけるはずです。
ラフィン シンメ曲はつくっていて楽しいですね。たとえば『Ebony & Ivory』は、キャラクターである堂嶌燎と天城輝之進の関係の尊さを、ぼくが勝手に妄想しながら楽曲のイメージをつくりました。いち『JAZZ-ON!』ファンとして、溢れた想いをそのまま形にするだけという贅沢な制作です(笑)。
※1 シンメ曲:「シンメトリー楽曲」の略称。『Ebony & Ivory』『Lead Your Sound』など、作中で因縁のある二人組による楽曲で、お互いの違いを描き出すことにフォーカスしている
『Ebony & Ivory』堂嶌燎(CV.深町寿成)&天城輝之進(CV.堀江瞬)
『JAZZ-ON!』らしさを追求するため行った、変化球の楽曲制作
―楽曲が決定し、ボーカルレコーディングにいたるまでにも『JAZZ-ON!』ならではのこだわりの制作過程があったとうかがっています。
ラフィン 今回は、一般的な歌録りとは違い、アレンジ前のラフな音源の状態で、声優さんのボーカルレコーディングを行いました。
坪井 キャラクターのお芝居をしながら歌う曲の場合、楽曲が決まりきる前に収録したほうが、声優さんのベストな演技を引き出せるというラフィンさんのお考えですね。
ラフィン はい。そのほうが現場で柔軟に対応できるんですよね。さらに『JAZZ-ON!』ならではの話でいうと、「歌=キャラクターの想い」を音楽で表現するために、ちょっと反則をしました。
―反則とは?
ラフィン サックスやトランペットの楽器のソロが鳴っているところに、声優さんにセリフを当ててもらったんです。じつはこれは一番はじめに思いついていたことではあったのですが、「言葉では言えない想いを楽器で表現する」のが音楽なので、ちょっと反則かもしれない、と(笑)。この楽器のソロは、キャラクターのこういう心情を表していますといった、字幕をつけていく感覚ですね。
坪井 ぜんぜん反則とは思いませんでした。感情をより豊かに表現する手法のひとつと捉えています。
『Invisible Chord 2nd』武宮大和(CV.駒田航),依吹青(CV.土岐隼一),九鬼暁(CV.神尾晋一郎),星乃レイ(CV.ランズベリー・アーサー)
ラフィン ただ、それを全曲でやると逆に制約になるし、単調にもなってしまうので、メンバー4人が集まった全体曲と一部の曲のみで実施しています。
坪井 声優さんに楽曲をお渡しするときの仮歌(本番収録の前に、第三者に歌ってもらうこと。歌手に歌い方のイメージを伝えるために行われる)にも、工夫が必要でしたね。どの楽曲にセリフを入れるか、どのタイミングで声優さんにお任せするかという部分も吟味しました。
ラフィン その一方で声優さんの声や、キャラクター同士のかけ合いを楽しみたいというファンの方の目線も意識しながら、会話を取り入れつつも曲として成立するように、ディレクションは注意していました。たとえば、『Lead Your Sound』は、ストーリーのダイジェストを歌で会話しているという構成。『JAZZ-ON!』らしさを保ちつつ、キャラクター同士が会話している様子を表現できたと思います。
『Lead Your Sound』智川翔琉(CV.石井真)&鳴海ロラン(CV.古川慎)
―声優さんの個性を活かしつつ、『JAZZ-ON!』らしい楽曲をつくり上げていったのですね。後編では、バンドのお話や、16人のキャストそれぞれのレコーディングの裏話などをおうかがいしていきます。
2021年6月2日『Tone of Stars Beta』リリース
キャラクターの心情を歌詞にした楽曲と濃密な青春ストーリーがミュージカルのようだと人気の第2部シリーズ、第4弾が2021年6月2日に発売!
表題曲を影山新(CV:伊東健人)、氷室奏斗(CV:中島ヨシキ)、九鬼煌真(CV:石谷春貴)、栢橋拓夢(CV:河西健吾)の4人が歌唱し、2人1組のシンメ曲を影山新(CV:伊東健人)&行田光牙(CV:大河元気)と栢橋拓夢(CV:河西健吾)&星乃レイ(CV:ランズベリー・アーサー)の2組がそれぞれ歌い上げます。
収録内容 01.Tone of Stars Beta 影山新(CV:伊東健人)、氷室奏斗(CV:中島ヨシキ)、九鬼煌真(CV:石谷春貴)、栢橋拓夢(CV:河西健吾) 02.Reveal 行田光牙(CV.大河元気)、影山新(CV.伊東健人) 03.We are here 星乃レイ(CV:ランズベリー・アーサー)、栢橋拓夢(CV:河西健吾) 傷だらけのユニゾン -1- 傷だらけのユニゾン -2- 傷だらけのユニゾン -3- |
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『Tone of Stars Beta』影山新(CV:伊東健人)、氷室奏斗(CV:中島ヨシキ)、九鬼煌真(CV:石谷春貴)、栢橋拓夢(CV:河西健吾)
文:阿部美香 撮影:豊島望 編集:服部桃子(CINRA)
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