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キャラクタープロジェクト『KonMari Spark Joy!』【前編】こんまり®メソッドをパズルゲームに

2021.09.02

片づけコンサルタントとして世界的に活躍する、「こんまり」こと近藤麻理恵さん。『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)を2010年に出版し、世界40か国以上で翻訳され、累計1,300万部を超える大ベストセラーとなりました。2019年には、Netflixのノンフィクション番組『KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜』が公開され、エミー賞2部門にノミネートされるほど大きな旋風を巻き起こし、その世界的人気はいまも続いています。

こんまりさんの魅力といえば、なんといっても「ときめき」を基準に置いた片づけメソッド。「人生を豊かにするために片づけの習慣を身につけ、それによって心を磨く」というこんまりさんの思想を盛り込んだモバイルゲームアプリ『KonMari Spark Joy!』が2021年8月27日にリリースされました。

プロデュースは映画『告白』や『モテキ』、そして社会現象を引き起こした『君の名は。』など、数々の大ヒット作品のプロデューサーを務め、小説家、脚本家、クリエイティブ・ディレクターなどジャンルを越え幅広い活躍を見せる川村元気氏を迎え、ゲーム開発はアカツキが務めました。今回は、アートディレクターとして開発に携わったアカツキデザイナーの嶋原千高に、ゲームのコンセプトやキャラクタープロジェクトの制作過程のエピソードを聞きました。

『KonMari Spark Joy!』

『KonMari Spark Joy!』

嶋原千高 Shimahara Chitaka『KonMari Spark Joy!』アートディレクター

株式会社アカツキ クリエイティブチーム所属 2017年に新卒でアカツキに入社。新規ゲーム開発のイラスト領域を経験後、『KonMari Spark Joy!』ではイラストレーター/アートディレクターとして立ち上げ時から開発に携わる。

キャラクター作りから始まり、「こんまり®メソッド」を楽しみながら体感できるパズルゲームを。

―2021年8月27日にリリースされた『KonMari Spark Joy!』。片づけや誰かの思想をゲーム化というケースはあまり聞かないですが、そもそも、本プロジェクトはどのような経緯でスタートしたのですか?

嶋原 KonMari Mediaさんと川村さんから「こんまりさんの新しいデジタルコンテンツをつくりたい」とお話を伺ったことがきっかけです。KonMari Mediaさんは、こんまり®メソッドを今までに届いていない方に、今までにない方法で届けられないかと考えていらっしゃいました。アカツキとしては、こんまりさんがもつ世界観やそのメソッドに強く共感したことと、Netflixでドキュメンタリー番組の第2弾が公開されるタイミングでもあったため、そのリリースに合わせてアカツキとしてもなにかご協力できないかと考え、企画を提案いたしました。

アカツキはデジタル発のキャラクターづくりやゲーム開発を得意としておりましたので、実在する方を”キャラクター化”し、そして本やドキュメンタリーで紹介されていた実在するメソッドを今までとは別のかたち、つまり”楽しみながら体感できるゲーム”にしたいと思ったんです。そういったかたちで川村さんと初期構想を考えながらプロジェクトがスタートしました。

『Konmari Spark Joy!』アートディレクター嶋原千高

『KonMari Spark Joy!』アートディレクター嶋原千高

―『KonMari Spark Joy!』をパズルゲームにした理由は?

嶋原 こんまりさんの思想や、片づけで得られるスッキリ感を最も表現できるゲームはなにかと考えたときに、パズルゲームの「ものが消える」という仕組みはぴったりだと思ったんです。ただ、実在する人物をキャラクター化することも、誰かの思いや思想をゲームで伝えるという試みも初めてだったので、パズルゲームに決まるまでは本当に手探りの状態でした。数え切れないほどのゲームシステム案をチームで出しましたね。

『KonMari Spark Joy!』のパズルゲーム画面。左端の薄いグレーの勾玉の中の回数だけブロックを動かし、右側の形をつくることでクリアできる。移動回数が余ると、左端の濃いグレーの勾玉に回数がストックされ、さまざまな恩恵が得られる

『KonMari Spark Joy!』のパズルゲーム画面。左端の薄いグレーの勾玉の中の回数だけブロックを動かし、右側の吹き出しの中の形をつくることでクリアできる。移動回数が余ると、左端の濃いグレーの勾玉に回数がストックされ、さまざまな恩恵が得られる

グローバルで愛されるキャラクター・世界観にするために。意識したのはミニマルなかわいらしさと普遍性

―『KonMari Spark Joy!』はアメリカ合衆国(以下US)を中心に、グローバル展開を見据えて開発されたそうですね。

嶋原 本プロジェクトは世界各国で配信されるという前提で、時代に左右されずに愛されるキャラクターデザイン、多様性や欧米の価値観なども踏まえて、ゲームデザインを考えていきました。さらに、こんまりさんの世界観を活かして、作品として美しく、心がときめく、癒されるような演表現にするために、ゲーム内の装飾やエフェクトなどをできるだけ盛り込むというモバイルゲームでよく用いられる表現ではなく、「迷ったら削ぎ落とす」という方向に舵を切りました。

こういったミニマルなデザインはこんまりさんのリクエストでもあり、「ときめくものだけを残す暮らしをめざす」こんまり®メソッドにもリンクするため、力を入れています。

たしかに、やさしい色使いの画面デザインやさまざまなキャラクターが出てくるところは、これまでのモバイルゲームの雰囲気とは違いますね。ストーリーのうえでも工夫したことはありますか?

嶋原 ストーリーは失恋したばかりの主人公の悩みから始まり、旅を通じて世界中のさまざまな悩みを抱える人々に出会うことで展開していきます。恋愛の悩みというのは国や年代が違っても多くの人が共感しやすいため、主人公の悩みは恋愛に関することにしました。ゲーム全体がほとんどノンバーバル※1で進行するため、主人公以外の悩みもパートナーを亡くした悲しみ、子育て中で家が片付かなくてイライラしてしまう……など世界中のどこでも普遍的な悩みにしています。

※1ノンバーバル:非言語、言葉を用いない

『KonMari Spark Joy!』

主人公は失恋のショックで心も部屋も乱れたポニーテールの少女。少女がこんまりさんに片づけの力を伝授してもらいながら、荒れた部屋で悩みを抱える人々の部屋を片づけ、悩みを解消していく成長ストーリー

―Netflixの『KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜』でも、部屋とその住人の悩みがリンクしているエピソードが多いですよね。ゲームのなかでこんまり®メソッドを体感できる部分はありますか?

嶋原 こんまり®メソッドにおいて、「ときめき感度」を最も高めたうえで片づけるべきとされている「思い出の品」にまつわる悩みはゲームのなかにも登場し、一部のステージではストーリーの核となっています。

また、こんまり®メソッドの基本は衣類、本類、書類、小物類、思い出の品という順番で片づけていくのですが、じつはゲームのなかの片づけもその順番で進行しています。さらに、クローゼットの中身を「右肩上がり」の収納にしているなど、「隠れこんまり®メソッド」がいろいろなところにあるので、ぜひ見つけていただきたいです。

『KonMari Spark Joy!』クローゼットをよく見ると「右肩上がり」で収納されている

クローゼットをよく見ると「右肩上がり」で収納されている。これもこんまり ®メソッドのひとつ

ゲームのなかで印象的なのは、街や部屋などのにぎやかな世界と、大きな桜の木が立つ静かな世界が交互に現れることです。これはどういうことを表しているのでしょうか?

嶋原 この2つの世界は「陰陽」をモチーフにしています。「陽」である街や部屋の世界は現実世界を表現し、「陰」である大きな桜の木の世界は精神世界を表現しているんです。陰陽の世界を行き来しながらゲームを進めていくことで、「部屋と自分は表裏一体であり、現実世界と自分の心(精神世界)はつながっている。だからこそ、どちらも大切にしながら成長させていく必要がある」というメッセージを伝えようとしました。

「陽」は世界の都市をモチーフにしていて、新たな街を見に行きたい、というプレイヤーさんのパズルクリアのモチベーションにつながればいいなと考えています。「陰」の世界も、実はパズルの移動回数と関係があるのでパズルをもっと楽しむ助けになればと。

一般的なモバイルゲームでは、インゲームと呼ばれるプレイ画面と、アウトゲームというサービスなどゲーム以外の機能に触れる画面で成り立っています。しかし、『KonMari Spark Joy!』の場合は、陰陽それぞれの世界でインゲームが1種類ずつある。そうするとプレイヤーさんは複雑に感じてしまうため、どうやったらわかりやすく伝わるのか、最後の最後まで試行錯誤しました。

『KonMari Spark Joy!』さまざまな人々が暮らす現実世界である「陽」の世界(上)、静かな精神世界を表した「陰」の世界

さまざまな人々が暮らす現実世界である「陽」の世界(上)、静かな精神世界を表した「陰」の世界

かわいらしいキャラクターたちと一緒に、普段ゲームをしない人に届けるための「やり切ることができるゲーム」を。

今回こんまりさん、川村元気さんとゲームをつくったことで、どのような発見がありましたか?

嶋原 『KonMari Spark Joy!』は普段あまりゲームをしない人も楽しめ、多くの人にこんまりさんの思想が伝わるように開発されたゲームなんです。そのため、ゲームステージの難易度も抑えて、ストーリーも完結型にしています。ゲームとしてもシンプルにしていて、時代の潮流や日本のゲーム市場のトレンドに逆らったアプローチといえるかもしれません。

このアプローチはこれまでのゲーム開発とは異なるアプローチだったため、「こんなにシンプルで、サクサク進められていいのだろうか」と川村さんに相談したこともあります。すると、川村さんからは「たとえば書店やコンビニの本でも、すべてが分厚い本ばかりではないですよね。気楽に読み切れるタイプの本も人気があります。今回のゲームがめざすのも、やり切れるゲームではないか」と答えが返ってきて。

普段ゲームをしない人がゲームに触れ、最後までやり切ることが重要で、そこでいい体験ができたと思ってもらうことで購入した価値が生まれる。このような川村さん独自のアイデアや視点をたくさん提示していただきつつ、キャラクタープロジェクトから生まれたゲームの軸がブレないようにコンセプトに沿ってフィードバックをくださった。日頃、私たちがデジタルコンテンツの世界にフォーカスしていることで、狭くなりがちな視野が広がりましたし、そのおかげで、ゲームの可能性が確実に広がったという手ごたえがあります。

『KonMari Spark Joy!』ステージやキャラクターなどのラフ案

ステージやキャラクターなどのラフ案

実際にプレイしてみると、簡単な操作でパズルをクリアできるスッキリ感、そしてたまに登場する難しいステージに何度もトライした末にクリアした時の達成感のバランスがちょうどいいですね。ターゲットは大人だと思いますが、操作がしやすく、子どもでも楽しめそうですよね。

嶋原 実際に打ち合わせのときも、こんまりさんのお子さんが開発途中のゲームを遊んでくれたりしました。大人はもちろん、子どもも、このゲームを手にとって、片づけの楽しさを体感して、片づけに興味をもってくれたらうれしいです。

ありがとうございます。後編では、ステージやキャラクターなどのデザイン面について、より具体的なお話をうかがいます。

KonMari Spark Joy!公式サイト
https://sparkjoy.jp/ja/
■ App store
https://apps.apple.com/us/app/konmari-spark-joy/id1557213958
■ Google Play
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.sparkjoy.KonMari

文:宇治田エリ 写真:豊島望 編集:服部桃子(CINRA)